10 years before, they haven't yet met...
10 years before, they haven't yet met... 1
聖歴2016年8月26日(金)
「おつかれー、今日も寄り道していこうよ」
「うん、いくいくー」
夏休みの暑い日。わたしとマキ、カナエ、ミカのいつもの四人組は部活終わりの計画を練る。
この暑い中毎日ランニングさせられるのは正直きついけど、それがあるから部活終わりには楽しい時間があると思って一所懸命やるしかない。
「それで、どこ行こっか?」
四人の中でリーダー格のマキが皆の意見を聞く。しかし、これといったいいアイデアは出てこない。
わたしたちの中学校の学区には、古くて大きなお寺がある。観光地としても有名なそこの周りは大きく発展していて、観光客も多いしお店も多い。
けど、この辺りのお店といえばもんじゃ焼き屋とか団子屋とか、和菓子屋とか、そんなのばっかりなのだ。
はっきり言うと、「イケてない」の一言に尽きる。
だから結局……。
「おまたせー」
順番が最後になったわたしはレジでお会計を済ませると、オレンジジュースとライオンみたいな形をしたドーナツをトレイに置いて三人の待つテーブルにやってきた。
「なによ。あんたそれだけ? 部活帰りで疲れてるんだから、もっと買えばいいのに」
わたしのトレイを見たカナエが言った。
「うーん、ちょっと最近太り気味だから……」
とわたしが答えると、カナエは「そんなことないって」とわたしの背中をばしばしと叩いた。その時、ちょっとお肉がむにゅっとした。カナエはすかさず、
「あ、やっぱお肉ついてるわ」
とわたしをからかう。
わたしは笑いながら席に着いた。マキとミカも笑いながら各々のドーナツを口に運んでいる。
そう。結局、いつものチェーン店のドーナツ屋さんになってしまうのだ。
「なんていうか……イケてないわよね、あたし達」
「ホント、イケてない」
それが最近のわたし達の口癖になっている。
中学二年生ともなるとそれなりに外からの情報も入ってくるわけで、そういう情報というのは得てして華やかできらびやかなものである。『隣の芝は青い』ともいうけど、それを差し引いてもそういう情報の世界とあたし達の毎日の部活動生活を比較してみると、やっぱり――
「そうよね、イケてないわよね……」
あたしもマキたちと同じようにため息をついた。
「あぁ……一度でいいから渋谷とか原宿みたいなお洒落なところでお茶したいな……」
「あたしもあたしも!」
「あたしは六本木に行ってみたいな」
「六本木、いいよねぇ~」
最後の「いいよねぇ~」は四人で声が揃った。それがおかしくて笑う。
「ねえねえ、今度行ってみない? 四人で。夏休みが終わる前に」
そう提案したのは四人の中で一番活発なミカだ。
「面白そう!」「行きたい!」
すかさずほかの二人がその話に乗った。でも、あたしはやっぱり心配で……。
「でも、学区の外に生徒だけで行くのは校則違反だし……」
わたしの中学の校則では生徒だけで学区の外に行くのを禁じている。つまり、子供だけで行けるのはこのイケてない門前町の中だけなのだ。
「もう! あんたはいっつもそう言って……! 優等生なんだから!」
「そ、そんなことないよ! わたしだって渋谷とか行ってみたいし……」
渋谷も原宿も列車を乗り継げば一時間とかからない。六本木はよく知らないけど。
「それじゃあさ、明後日の日曜日、部活も休みだし、行ってみない?」
「行きたい行きたい!」
わたしの心配をよそに、マキを中心にカナエとミカで盛り上がってしまった。
こうなるともう止まらない。
行くかどうかはお母さんに聞いてみないとわからないけど、わたしも話には加わることにした。
「それでね、集合時間は……」
「それじゃ、また明日ー」
「うん、バイバイ」
ドーナツ屋さんの前でマキ、ミカと別れた。カナエとは家の方角が同じなのでもう少し一緒だ。二人で話をしながら部活の疲れもあってだらだらとゆっくり歩く。
「あーあ、明日も部活か。せっかくの土曜日なのに」
わたしがため息をつくとカナエも頷いた。
「ホントホント。顧問って何が楽しくてあんなに厳しくしてるんだろ。そんなんだから行き遅れるのよ」
カナエはくすくす笑った。部の顧問は確か今年で二十五歳。あれはモテないタイプだってミカが言ってたけど、わたしにはよくわからない。
「部活もそうだけど、夏休みの宿題もやらないとね。あぁ、憂鬱」
あたしが言うと、カナエはアチャーと言った具合に手を額に当てた。
「んもー! せっかく忘れてたというのに、この子は!」
言ってカナエはあたしの脇腹をつん、とつついた。思わず笑ってしまう。
「ねえ、自由研究やった?」
ひとしきり笑ったあと、カナエが聞いてきた。わたしは「うん」と答え、
「錬金術でゴーレムを創ってみたんだ。自分で判断してお掃除してくれる小さいやつ」
カナエは驚いたような顔をした。
「すごい! 錬金術なんて、学校でも習ってないじゃない!」
「うち、お父さんが錬金術やってるから、教えてもらったんだ」
「あんたのお父さん、自衛隊じゃなかったっけ? 自衛隊って、錬金術なんてやるの?」
「うちのお父さんは研究職だから」
「へぇ……。なんかかっこいいね。和菓子職人のうちとは大違い」
「和菓子職人もかっこいいよ。わたし、和菓子大好き」
「ドーナツよりも?」
「うーん、それは迷うな。できるなら両方欲しいかな」
「そんなんだから太るんだよ」
「あーっ、また太るって言った! 気にしてるんだからね!」
そんな感じでからかってくるカナエと一緒に帰っている道すがら、目についたものがあった。
そこはお寺の正面の、土産物屋がずらりと並んでいる商店街の真ん中だった。日本人、外国人を問わずいろんな人々が時に立ち止まり、時に歩いている中で、ただひとりだけその場に立って辺りをきょろきょろと見回していた。
普通なら気にもとめないだろうが、その日は妙に気になったのだ。
「わたし、こっちだから!」
「え!? あんたの家、そっちじゃないでしょ!」
「また明日!」
遠ざかるカナエの声を振り切るように走っていった。
人混みをかき分けて、その子の前で立ち止まり、顔の高さを合わせるためにしゃがんで声をかけた。
「ねえ、きみ。もしかして迷子かな?」
そこに立ち尽くしていたのはこの門前町にはあまり似つかわしくない、ひとりぼっちの小学生くらいの男の子だった。
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