狂える戦鬼6
「間一髪って所だったな」
「斉彬先輩……」
その言葉の通り間一髪で慎一郎を救った斉彬が慎一郎の所まで歩いてきて手を差し出した。
その頃にはもう慎一郎の身体の痺れもおさまっていて、なんとか立ち上がることができた。
「助かります、斉彬先輩」
「仲間だろ。気にするな」
斉彬が笑いながら慎一郎の肩を叩くその時、斉彬の後ろで鬼が起き上がるのが見えた。
「斉彬さん、後ろ!」
「わかってる!」
斉彬は素早く振り返ると、振り下ろされる鬼の拳に〈デュランダルⅡ〉を合わせるように振る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」
次々と繰り出される鬼の連撃の全てに斉彬は愛剣をあわせ、その全てをたたき落としている。鬼の攻撃を二度受けただけで粉々に砕けた既製品とは違う。
「すげぇ……」
追いついてきた徹が驚嘆の表情をしている。今までの斉彬とはパワーもスピードも段違いだ。
「ちょっと菊池の所に行って、身体強化の魔法をかけてもらったんだ。ヤバい奴だって聞いたんでな」
鬼の連打を受けながら斉彬はにやりと笑い、自分の超パワーアップの秘密を打ち明けてくれた。短時間だが段違いのパワーとスピードを出せるらしい。
「それよりも浅村! 土産を持ってきたぞ。受け取れ!」
斉彬が叫んだちょうどそのタイミングで、一行のところにガチャガチャという音を立てて近づく小さい影が見えた。
「お、お待たせしたっす~!」
まるで数本の束になった剣が歩いてきているかのようにゴンが自分の身長ほどもある六本の片手剣を両手に抱えてやってきた。
『でかした! これで少しはまともに戦えるというものじゃ!』
走ってくるゴンの手元から二本の〈エクスカリバーⅡ〉がふわりと浮かび上がり、ゴンが「うわわっ」と驚きつつも残りの剣を落とさずに慎一郎の元へと運んできた。
『シンイチロウよ、剣を持て。いつまでもナリアキラだけにいい目を見させておく訳にはいかぬぞ』
「ああ!」
慎一郎がゴンから剣を受け取り戦線に復帰したときにはすでに剣術員達による包囲網が完成しており、斉彬との一対一の状況も解消していた。
鬼を包囲するのは主に剣術部の部員達で、十数人。すでに何人かは軽傷を負っており、そういった部員達は少し離れた所に待機している。
「こよりさん、負傷者を連れて行ってくれ!」
「わかった!」
斉彬が叫ぶと、ゴンと一緒にやってきたこよりが負傷者のところへ駆け寄ってくる。彼女の後ろには担架があり、こよりの後ろを自分で歩いてついてきている。
よく見ると、担架の持ち手の部分にはそれぞれ小型の四体のゴーレムがおり、それが担架を運んでいるのだった。
「すいません、誰か手伝ってください!」
こよりがいうと、何人かの剣術部員がやってきて、負傷者を担架の上に載せた。怪我人を担架に固定したことを確認するとこよりは手を叩く。それを合図にゴーレム達はものすごい勢いで走り去っていった。
「“戌”のほこらの近くに仮設の救護所ができています。今、一人ずつ運んでいくから、少し待っていてください」
こよりがそう説明している間に先ほどの怪我人を運び終えた担架ゴーレム部隊が行き以上のスピードで戻ってきた。
『ふむ、なかなか良い連携じゃ。わしらも負けてはおれぬぞ。まずやこやつを少しでも遠くに誘導するのじゃ』
メリュジーヌの指示――多くの生徒達に彼女の声は聞こえないので慎一郎が代わりに指示を出している――のもと、鬼を崩壊した剣術のテントから少しずつ離れるように誘導する。
この頃になると鬼の行動パターンが少しずつわかってきた。
鬼のパンチは強烈だが、必ず正面の相手にしか繰り出さない。鬼と目が合ったら冷静に数歩下がれば鬼の攻撃は受けない。
時々出してくるショルダータックルは脅威だが、敵の注意力をなるべく散漫にさせることによってその頻度を下げることはできた。
その役割は比較的射程の長い攻撃を持つ慎一郎と徹、そしてさらにあとから参戦した楓に託された。
特に楓の攻撃は効果的で、彼女の射撃は正確に鬼の目を狙う。さしもの戦鬼といえども目を狙われれば防御にまわらなければならず、その攻撃が鬼の周囲で注意を引きつける最も危険な役割を担う生徒達の危機を何度も救い、また彼らに若干ではあるが精神的なゆとりをもたらしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます