狂える戦鬼3

 ――あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


 秋山が落下させたテントの屋根、巨大な布はテントの中にいた人物全ての頭上に平等に降り注いだ。それは悪鬼も例外ではなく、突然頭上から布をかぶせられた鬼は今まさに止めを刺さんとしていた慎一郎のことなどを忘れて布を取り除こうともがいている。


「今のうちに逃げろ!」

 少し離れた所から秋山の声が聞こえた。慎一郎はその声に従って布の下から這いだした。


「慎一郎!」

 布から出た所で結希奈が駆け寄ってきた。


「大丈夫?」

「ああ。けど……」


 崩落したテントの方を見た。大きな布の中央近くが大きく盛り上がり、時々激しく一部分が跳ね上がっている。悪鬼が力任せに自分に被さった布を殴っているのだろう。しかし布はそんなことで破壊されるはずもなく、まさに暖簾に腕押しのごとく一瞬だけ膨れてはすぐに悪鬼に絡みついている。


『まずいのぉ。手立てがない』

 メリュジーヌがほぞをかんだ。鬼の注意を引きつけて力比べにならないように時間を稼ぎ、その間に生徒達を逃がすことはできるかもしれないが、そのあとのプランがない。このやり方では注意を引きつける役が犠牲になってしまう。


「けど、やるしかないだろ?」

 慎一郎が決意を含んだ瞳でメリュジーヌのアバターを見た。メリュジーヌは微笑んで肩をすくめた。


『お主ならそう言うと思った。ま、わしもそういうのは嫌いではない。そういう馬鹿者を何人も見て来たしの』


「慎一郎。メリュジーヌ」

 結希奈がそっと慎一郎の肩に触れた。すると慎一郎の身体が淡く光り、すぐに元に戻った。


「少し強めの防御の魔法をかけたわ。でも、回数が決まっているから気をつけて、左手の甲に星があるでしょ? それが残り回数。なくなったら加護はもうないから」

 言われて左手の甲を見ると結希奈の言うとおり、淡く輝く星が三つ浮かんでいた。それを見ながら左手を強く握り、決意を新たにする。


「気をつけて。無茶しないでね」

「ああ」

『安心せい。このわしがついておる』

 結希奈は「頼むわよ、ジーヌ」と言い残し、怪我人がまとめられている“戌”のほこらの方へと駆けていった。


「浅村」

 その時、背後から呼び止められた。振り向くと先ほど柱を切り落とした秋山とショーでモンスターと戦っていた金子、それに幾人かの北高と港高の剣術部員達が並んでいた。その中には先ほど秋山を呼びに行った徹もいる。徹は慎一郎に微笑み頷いた。それを見て慎一郎は頼もしく思うのだった。


「俺たちも一緒に行く。部外者のお前だけに任せるわけにはいかないからな」

「雅治さん! あんたまだそんなことを……!」

 秋山の言葉に反発する徹を制して秋山は続ける。


「そうじゃない。ここは俺たちが管理していた場所なんだ。責任は俺たちにある。客だけにこういうことをさせるわけにはいかないんだ」

「そうか……。悪かったよ、早合点して」

 矛を収めた徹に秋山は微笑みかける。


「いいさ、坊ちゃんは俺たちの心配をしてくれてるんだろ?」

「そ! そんなこたぁ……ねえよ」


 秋山は再び慎一郎に向き合い、問う。

「どうだ、浅村? 俺たちと一緒に戦ってくれるか?」

「よろしくお願いします!」

 一度は対立した〈竜王部〉と剣術部の部長同士がしっかりと握手をした。

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