悪竜と光の若者たち5

 ナレーションが終わると同時に教室全体が拍手と歓声に包まれた。

 舞台の下で身をかがめながらぬいぐるみ達を操作していた慎一郎とこよりには汗だくになりながらもその歓声はしっかり届いていた。満足感に思わず二人は笑顔になる。


『今回も大成功じゃな。よくやった、二人とも。ま、一番の功績はこの大傑作を世に産み出したわしのものじゃがの』

 いつの間にか銀髪の幼女今までぬいぐるみ達が演技をしていた舞台の上へ登って観客達に手を振っている。まるでカーテンコールのようだが、メリュジーヌの姿は〈念話〉越しに見えるアバターでしかないので、観客達にその姿は見えないのだが。


 一人でやりきったように歓声を浴びるメリュジーヌを見ていると、これまでの苦労などどうでもよくなり、やりきったという感情だけが浮かび上がってくる。


「…………ま、いっか」

 慎一郎は笑みを浮かべて舞台の上のメリュジーヌを見ながら公演後の余韻を楽しんだ。


 やがて拍手がおさまると、今度は給仕を担当している徹や楓を呼ぶ声が聞こえるようになった。ショーを見て満足した客が今度は料理を注文し始めたのだ。


 今日の最後の公演も大成功だ。〈竜王部〉が出店するのは今日だけだが、客の入りは上々だった。評判もいい。売り上げはどうだっただろうか? 少しは活動資金の足しになっただろうか?


 そうだとすると皆の苦労が報われたのでとても嬉しい。仮にそうでなかったとしても皆でやりきったこの文化祭はきっと大きな糧になるだろう。


「慎一郎、こよりさん、手伝ってくれ!」

 注文と配膳で大忙しの徹がついに悲鳴を上げた。どうやら、厨房の手が回らずに楓が結希奈のヘルプにまわったために給仕が徹一人になってしまい、今度はこっちがまわらなくなったようだ。これまでの公演よりも注文が多い。大盛況だ。


「今行く! こよりさん、行きましょう」

「うん。もうひと頑張りしないとね」


 慎一郎は柔和な雰囲気の先輩と舞台の下から出て隣の教室でできあがった料理を運ぶために動き出した。さあ、もうひと頑張りしよう。


『さあ、皆の者、この舞台の原作者はわしじゃ。もっと崇めよ!』

 舞台の上ではまだメリュジーヌのアバターがその薄い胸を張って自分の功績を自慢していた。この竜王は相変わらずだ。

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