悪竜と光の若者たち3
[舞台]
火山の火口。切り立った岩と、その手前に煮えたぎる溶岩。草木のたぐいは一切ない、死の世界。隅に村から持ってきた貢ぎ物が乱雑に置かれている。
[人物]
【黒竜】。村から持ってきた四個の箱の前でくつろいでいる。箱――棺は開けられている。
[演技]
【黒竜】、箱をのぞき込む。
黒竜「ふむ……。言うだけのことはある。なかなか美味そうな人間どもだ。俺様が与えた眠り薬もうまく活用しているようだな」
[演技]
【黒竜】、箱の中の人物に向けて手を伸ばす。
その瞬間、箱の中から四人が飛び出してくる。【黒竜】が手を伸ばしていた人物――【若者】が【黒竜】に向けて剣を振るが、【黒竜】は大きくバックステップしてこれを回避する。
黒竜「起きていただと!? 人間のくせに小癪な……! 村人どもめ、裏切ったか……!」
若者「残念だが、村人は裏切ってなどいなかった」
魔法使い「そうそう、俺たちの方が一枚上手だっただけだ。あらかじめ魔法で薬を効かなくしておいたのさ」
僧侶「ま、その術をかけたのは私なんですけどね」
[演技]
【若者】、右手に持った剣を【黒竜】の方へ向ける。
若者「人の世を荒らす悪竜め! 勇者の名にかけて成敗する!」
ナレーション「なんと、若者たちは人の世を荒らす闇を晴らして旅をする、勇者の一行だったのです!」
――ここで大歓声拍手喝采の予定――
黒竜「人間の分際で生意気な。この俺様のブレスで消し炭にしてくれるわ!」
[演技]
【黒竜】、【若者】改め【勇者】に暗黒のブレスを放つ。
【勇者】、左手の盾でブレスを受け止める。同時に【僧侶】が防御魔法をかけて全員の身体が淡く光る。
戦士「うぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」
[演技]
【戦士】、剣を両手で持ち突進する。後方で【魔法使い】が呪文を唱える。
以下の戦闘はアドリブで。
「うぉぉぉぉぉぉ……!」
だがその動きは単調なもので、黒竜に当たるものではない。
黒竜がその巨体に似合わぬ俊敏さで戦士の一撃をかわす。
――が、それは囮であった。
黒竜が避けたまさにその場所をめがけ、淡く輝く片手剣を持った青年――勇者が飛び込んできた。体勢を崩していた黒竜はそれを避けることはできない。
咄嗟にブレスを吐くが、先ほどと同様、左手に持つ盾であっさりと無効化されてしまう。
――ギュァァァァァァァァァァァ……ッ!!
黒竜が苦しみに悶える。それは一般の人間であれば恐怖に恐慌を来してしまうほどの叫びであったが、彼ら四人には自分たちの攻撃が効いていることを知らせる福音でしかなかった。
――グワァァァァァァ!
怒りに震える黒竜が、その丸太ほどの太さがある尾を手近にいた戦士に向けて振り下ろす。
「ふん、その程度……!」
しかし、一行の中でも一番の攻撃力と防御力を誇る男は全く慌てることなく、その尾に正対したかと思えば、
「はッ!」
気合い一閃、巨大な両手剣を振り下ろす。
――ギャァァァァァァ……!
黒竜が全ての魂を凍り付かせるほどの絶叫を上げる。丸太ほども太い漆黒の尾は見事なまでに両断されていた。
黒竜は苦し紛れに暴れ回り、辺り構わず四肢を振り回し、口からはブレスを撒き散らすが、勇者も戦士もそれを冷静に見極め、回避し、さらにはすれ違いざまにその強固な鱗の隙間に強力な一撃を食らわせる。
身体を支える重要な腱を断裂され、竜の巨体はその自重を支えきれなくなり、大地にくずおれる。
――おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!
怒りに震えた竜はその黒い翼を羽ばたかせて浮かび上がる。上空からブレスを放ち続ければいくらあの盾があろうとも負けるはずもない。スタミナ勝負では圧倒的にこちらが有利だ。
しかし、それすらも勇者達の手の内であった。
「縛!」
それまで戦いに参加していなかった魔法使いの青年が声を上げた。それは呪文の完成を意味するものである。
黒竜が『たかが人間』と侮る彼らは、世界の理である“魔法”を体系としてくみ上げ、より理論的かつ実践的な“魔術”として昇華した。彼はその魔法技術を体現する男である。世界の理は彼の味方であった。
魔法使いの周囲の地面から金色に光る何本もの鎖が飛び出した。それはまるで意思を持っているかのように自ら動き、狙い違わず黒竜の四肢を捕らえる。
黒竜を掴んだ金色の鎖は、まるで時を巻き戻すかのように地面へと戻っていく。しかし、黒竜を掴んだ鎖の先端は強大なる竜がいくら暴れようともがっちりと掴んで離しはしない。
火山全体を鳴動するほどの轟音を上げて大地にたたきつけられた黒竜は、その後魔法の鎖によって大地に縫い付けられる。苦し紛れにブレスを吐くが、歴戦の勇者達には目くらましにもならない。
勇者が、戦士が、僧侶が黒竜の足元に取り付いてめいめいに攻撃を加える。そのたびに黒竜は小さな人間達を忌々しげな目で見るが四肢をくくりつけられている状態ではその肉体の大きさも活用することができない。
そしてさらに――
「炎よ!」
魔法使いの頭上に浮かぶ巨大な――両手ではとても抱えきれないほどの炎の塊がゆっくりと、だか確実に動きを封じられた悪の黒竜に向かって降り注ぐ。
「うわ、うわわわわっ!」
「バカ! 限度ってもんを……!」
「皆さん、離れてください!」
慌ててその場を離れる仲間達の悲鳴をよそに巨大な火の玉が黒竜を燃やす。
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