悪竜と光の若者たち2

 [舞台]

 村の中。木とワラでできた家が数軒建っている。すでに日は暮れており、あたりは暗い。村の中央部には広場があり、そこには仮設で作られた巨大なかがり火が煌々と燃えている。かがり火の前には収獲された作物や動物の肉が大きなテーブルの上に置かれている。




  [人物]

 【農民】よりは少しだけ身なりのいい老人、【村長】。腰が曲がっているが杖はついていない。ほかの村人は背景に書き加えること。




 [演技]

 かがり火の前で待っている【村長】の所に【農民】に案内された青年四人が歩いてやってくる。【農民】が【村長】に事情を説明するしぐさ。【村長】は二、三頷く。

 その間、【青年】達も村の様子を見て話をしている。




 魔法使い「なあ、『収穫祭』って割には村の連中、ずいぶん暗くないか?」

 僧侶「ええ。それによく見てください。村の人たち、ご老人と子供ばかりで、若い男女が一人もいない」

 戦士「おい、これってやっぱり……」

 青年「ああ、わかってる。……準備はいいか?」

 僧侶「はい。〈抗毒アンチドーテ〉の魔法を使用します」


 


[演技]

 【村長】が【青年】の方へやってくる。【農民】はそのまま歩いて舞台の下手から退場する。




 村長「事情は伺いました。旅の方だそうで?」

 青年「ええ、一晩宿をお借りできればと」

 村長「もちろん構いませんとも。歓迎しますよ。今日は収穫祭なのです。旅の方々もどうぞ楽しんでいってください」

 青年「……ありがとうございます」




 [演出]

 暗転。




 ナレーション「どことなく不穏な雰囲気の中、収穫祭が行われました。青年達にも食事や酒が饗され、静かで控えめな祭りは夜半過ぎまで行われました。青年達は案内された空き家でその夜を過ごします」




 [舞台]

 夜中の村。どの家にも明かりはついておらず、広場のかがり火もすでに消えている。背景には何人かの村人がたいまつを持って立っており、それが光源となる。




 [人物]

 【村長】と数人の【村人】。【農民】の使い回しと、同じタイプのぬいぐるみが数人いればよい。

 広場には四つの大きな箱が置かれており、【村人】がその周りを取り囲んでいる。




 村長「どうだ、薬は効いておるか?」

 村人A「ああ、よく眠っている」

 村人B「けど、いいのかよ。こんな、だまし討ちみたいなこと……」

 村長「わしだってできればこんなことはしたくない! だが、こうでもしないと“黒竜様”に今度は村全部が……」

 村人B「…………」

 村人A「来たみたいだぞ」

 村長「愚かで弱いわしらを許してくれ、旅の若者たちよ……」




 [演技]

 村長と村人達は箱の前でひれ伏す。そこに巨大な影が舞い降りてくる。




 [人物]

 巨大な黒いドラゴン。デザインとスケールについてはメリュジーヌに要相談のこと。




 村長「黒竜様におかれましてはご機嫌麗しゅう……」

 黒竜「挨拶はよい。今年の貢ぎ物は用意したのだろうな?」

 村長「はい。今年も黒竜様のおかげで無事収穫できました。少ない量ではありますが、こちらが黒竜様への感謝の気持ちとなります」




 [演技]

 黒竜、背景に描かれている貢ぎ物をちらと見る。




 黒竜「……少ないな」




 [演技]

 【村人】達、さらに平伏する。




 村長「も、申し訳ありません……! 今年は不作だった上に、去年は種もみにまで手をつけてしまったので……」

 黒竜「この俺様に言い訳が通用するとでも?」

 村長「とんでもありません……! そ、その代わりともうしますか、今年は生きのいい生け贄を四人、用意してございます」




 [演技]

 【村長】が箱の置いてある方を見る。【黒竜】もそちらを見る。




 黒竜「ほう……。なかなか良いな。どれも若くて生きがいい。まだ生きているな?」

 村長「はい。黒竜様にいただいた薬を含んだ料理をたっぷり食べさせました。あと二日は目覚めないかと」

 黒竜「…………。ふん、まあいいだろう。今年はこの四人に免じて許してやるとしよう。ただし、来年からはこの三倍の量を用意しろ」

 村長「そ、そんな……! それでは私たちの食べるものがなくなってしまいます……!」

 黒竜「知ったことか! 今死ぬか、来年貢ぎ物を出せずに死ぬか、それとも飢え死にするか、今から選ばせてやってもよいのだぞ?」

 村長「……………………仰せのままに」




 [演技]

 【村人】達、再びひれ伏す。【黒竜】は去って行く。

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