不思議の国の楓2
私は朝ご飯を食べるために特別教室棟にある家庭科部のレストランに向かうことにしました。
レストランへのある部室棟へはは弓道場から本校舎にある昇降口から入って渡り廊下を通ります。〈竜王部〉の部室のある旧校舎はさらにその奥にあるので、途中までは毎日通る道です。
しかし、今日は特別な日。普段ならばあまり人のいない早朝の本校舎前には、今日の文化祭に出すお店の準備をする方々でごった返しています。
「わぁ……!」
何の料理でしょうか、お店で出す料理の仕込みをしている屋台もあれば、まだ屋台ができておらず、金槌で釘をトントン叩いているところもあります。奥の方では何やら打ち合わせをしていますね。何をする人たちなのかとても気になります。
(ああ、ここを浅村くんと一緒に回れればどんなに楽しいことでしょう……!)
知らず知らずのうちにワクワクしてきました。
なんだか楽しくなった私は本校舎と作物が生い茂る、かつての校庭の間に並んでいる準備中の屋台の間を歩いて行きます。
道の左右からは文化祭を目前に迎えた男子や女子の皆さんの楽しそうな声とか、野菜を切ったり何かを焼いたりする音とかが聞こえてきます。
人通りも多く、大きな箱や袋を持った人や大急ぎでどこかへ駆けていく人などとすれ違ったり、追い越されていきます。
私は邪魔にならないように隅っこに移動してその楽しそうな様子を観察していました。
すぐ側の屋台は私もよく知っています。バレー部の皆さんです。バレー部のアイスクリームは私も大好きで、夏の暑い盛りによく食べに行きました。最初の方はものすごい人気で、買うのも大変だったんですが、今となってはいい思い出です。
「でも……」
もう十月。アイスを食べるにはちょっと涼しいような気もします。バレー部の皆さんはどうするつもりなのでしょうか?
その向こうにある屋台では今まさに値札を取り付けているところでした。『タコもどき焼き500円』と書かれています。はて……? タコもどきとは何なんでしょう?
タコもどき焼きのソースが焼ける匂いがここまで漂ってきます。その瞬間、私のお腹が「くぅ」と鳴りました。そうでした。朝ご飯を食べるために特別教室棟へと向かう途中なのでした。
私は少々の名残惜しさを振り払ってその場を後にしました。道の左右は相変わらず活気に満ちあふれています。
私は今までお祭りというものに行ったことはなかったのですが、どうやら私はこのような雰囲気が大好きなようです。浅村くんと一緒にまわることができたらもっと楽しいだろうなと夢想します。
歩いてきた道を戻り、本校舎の昇降口へと向かう途中、屋台と屋台の間にぽっかりと間が開いているのを見つけました。他の場所は隙間なく屋台が建っているというのに、ここだけ何もないことにちょっと違和感を覚えます。
ここだけ屋台が建っていないので、その向こう側にある大きな畑がよく見えます。
畑にはいつものようにさまざまな作物が生い茂っています。あれはトウモロコシでしょうか、私の背丈よりも高くて、中に入ったら方角を見失いそうです。
「あら……?」
生い茂る作物の手前に、私の膝くらいの高さの板が立てかけてありました。そこにはお世辞にも上手とは言えない文字で『MAZE』と書かれています。
「めいず……? 銘ず? 冥頭? ああ……! 迷路のことですか!」
合点がいきました。よく見ると、看板の下には小さな箱が置いてあり、その箱の底には『1回百円。お題はこちらに』と書かれています。
もしかすると、この大きな畑全体を利用して作られた大きな迷路でしょうか。何だかワクワクしてきました。
私はお腹が空いていたことも忘れ、箱の中に生徒会が発行した――なんと、外崎さんが作ったそうです――百北高円硬貨を入れて迷路の中に入っていきました。
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