猿も木から落ちる2
「終わりはお前の方だよ、松坂瑠璃」
「何を言ってるの? 苦し紛れにそんなこと言って……も……」
瑠璃の言葉はそれ以上続かなかった。彼女の首筋に冷たい金属の刃がぴたりと当てられていたからだ。
瑠璃の身体がピクリと動く。やがて諦めたかのように全身から力を抜く。
「はぁ……降参するわ。どうやったのか知らないけど、まさかこんな切り札を残していたなんて……」
驚きの表情からため息を吐きながら肩を落とす瑠璃。
「……ん、な……ワケないだろうが、ゴラァァァァァァァァ!!」
しおらしい台詞から一転、瑠璃は素早く手元に置いてあった剣を手にとり、振り返って剣を振る。
「なっ……!!」
しかし瑠璃の剣は空を切った。目を見開く瑠璃。そこには誰も居なかった。ただ剣が宙に浮かんでいるだけだった。
「ざ……っけんな……っ……!」
瑠璃はすかさず剣の使い手がいたと思われる部分から狙いを宙に浮かぶ剣そのものに変更した。
「うらぁぁぁぁぁぁっ……! ナメんなぁぁぁぁぁっ……!」
何度も剣を振るが、それらはすべて浮かび上がる剣にいなされる。その動きからも、瑠璃は剣の扱いには慣れていないようだ。
キィンという金属同士がぶつかる音ともに瑠璃の剣が浮かぶ剣にはじかれ、無防備になる。
「ン……だと……!?」
瑠璃の表情が怒りに染まる。とどめを刺せたにもかかわらず、その程度の隙はいくらでも作り出せるとばかりに余裕を持ってその場に浮かび続けていた。
余裕の表情を見せる剣は瑠璃の記憶が正しければ、先ほどまで部屋の隅に備え付けられていたもの――彼女の持ち物だ。
そのことに彼女は怒りを募らせる。
「バ……カにしやがってぇぇぇぇぇっ!」
瑠璃は剣に後ろを見せて走り出した。狙いは慎一郎だ。もう身体を乗っ取るなどということは頭から飛んでいた。ただこの屈辱を晴らすために目の前のこの男を殺さなければ気が済まなかった。
――しかし。
瑠璃の目の前に今度は斧が飛んできた。これもこの部屋に備え付けられていたものだ。
「ぐっ……!」
立ち止まり、歯噛みする。
そうしている間に先ほどまで瑠璃の相手をしていた剣が彼女の首筋にぴたりと再び当てられ、もう一本、三つ叉の槍は瑠璃の喉元にあてがわれる。
合計三本の浮かぶ武器を前に、もはや瑠璃に戦う意思は残されていなかった。
カラン、と乾いた音が石畳に響く。瑠璃が持っていた剣を落とした音だ。
皮肉なことに、その剣もふわりと浮かび上がり、まるで慎一郎を守るように彼の身体の上で遊弋していた。
それを見た瑠璃は自らをあざけ笑い、
「参ったわ。降参よ」
今度こそ本当に降参したのであった。
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