混迷への序曲4
剣術部に遊びに行って帰りが遅くなり、夜この道を帰ってくることは何度かあったが、夜この道を剣術部部室へ向かうのは初めてだった。
徹が呼び出した〈光球〉があたりの木々を照らす。
この木々を抜けてしばらく歩くと剣術部の部室がある。何度も通った道だ。迷うはずもない。
しかし、彼がそこに行くよりも前にお出迎えが現れた。
木々の間から袴姿の高校生達が現れる。北高と港高、両方の剣術部員だ。しかしその表情はうつろで、生気に欠けている。
「よく会うな。前回もここで会わなかったか?」
徹が前方の木に向けて言うと、そこから小柄な人影が現れた。
「あぁ!? 知らねぇなぁ? この俺がいちいちお前みたいな雑魚のことなんか覚えてるワケねーだろうが」
相変わらず不機嫌な表情を隠しもしない
以前、ここで炭谷と会ったとき、徹は炭谷にあわやという所まで追い詰められていた。
「雅治さんに会わせてくれ」
確か以前も同じようなことを言って揉めたな……。などと思いながら徹は炭谷を見た。
「そうか」
炭谷は明らかに不機嫌な表情を崩さないまま、半身の姿勢を取った。
「…………?」
炭谷の行動の意図がわからず、首をひねる徹。
「行けっつってんだよ。今日お前が来ることはわかってた。通せって言われてる」
「え……いいのか?」
「いいっつってんだよ! 俺の気が変わらないうちに行け! 殺すぞ! ちっ、なんで俺がこんな雑魚を……」
そう言って炭谷は木々の中へ消えていった。
「なんだあいつ……? 何しに出てきたんだ?」
気がつくと、炭谷の周りにいた数人の剣術部員達の姿も消えていた。
いつものように、剣術部の応接室の扉を開けた。勝手知ったる他人の家というやつだ。何度も通っているから、どこで待てばいいか勝手がわかっている。
ここで待っていればいずれマネージャーの瑞樹がお茶を持ってくる。そこで少し雑談をしているうちに秋山がやってくるというのがいつものパターンだ。
だが、今日はそうではなかった。
「……ってあれ? 来てたんですか?」
その部屋には先客がいた。
「ああ、巽さんから結界の話を聞いたんですね。俺もそうなんですよ。念のために、不審者が入ってこないよう気をつけてくれって……って、え?」
その人物は音もなく立ち上がると応接室の入り口付近にいる徹の所まで歩いてきた。
「どうしたん……ですか……?」
そして、右手を徹の目の前に掲げる。
そこからは黒いもやのようなものが現れ、徹の顔を包み込む。
次の瞬間、徹はまるで糸の切れた操り人形のように全身の力が抜けて倒れ込んだ。先ほど徹が慎一郎に使った〈誘眠〉の魔法とは似ているが明らかに異なるものであった。
その人物は、そのまま無言で応接室から立ち去っていった。
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