馬耳東風2

「炎よ!」「炎よ!」

 徹と結希奈の魔法が突撃してくるウマの群れに向かって飛んでいく。


 しかし、ウマたちはこれを難なく回避、速度を上げて迫ってくる。

 楓も馬に向けて矢を二射したがこれも当たらない。


「当たらない……速すぎるんだ……」

 弓道部もこの速さに翻弄されて矢が全く当たらず一方的に蹂躙されたのだ。

 そうしている間にウマ達は一気に距離を詰めてきた。魔法や弓の第二撃は間に合わない。


「任せて。レムちゃん!」

 こよりの号令とともにあらかじめ用意された五体のゴーレムがウマに向かって突撃する。

 しかしゴーレムの動きは遅く、また小さいために難なく回避され、また蹴飛ばされる。


 が、こよりはそれも想定していた。


「爆!」

 その瞬間、ゴーレムが一斉にはじけ飛んだ。ゴーレムを構成していた石礫は辺り構わず飛び散り、その多くがウマに命中した。


「うわ、わわわっ!」

 しかし、いくつかの石礫が部員たちの方へも飛んできた。


「護りの光よ!」

 結希奈が咄嗟に〈守護プロテクション〉の魔法を唱えて石礫を跳ね返してくれた。


「もう、こよりちゃん! 気をつけてよね」

「あはは、失敗失敗」

 などと暢気なやりとりをできているのは、ウマの群れが石礫の雨あられを食らって一時的に待避したからだ。


 しかしそんな余裕もすぐになくなる。


「来るぞ!」

 斉彬が叫ぶ。


 ウマは一旦ほこらの近くまで戻った後、態勢を立て直して再度、こちらに突っ込もうとしている。


 おそらく後方でただ一頭待機しているあの黒い〈守護聖獣バイコーン〉がリーダーとなって群れを統率しているのだろう。その動きは乱れなく、秩序だっている。


『モンスターのくせに生意気じゃ』

 メリュジーヌがほぞをかむ。が、そうしている間にもウマの群れはこちらに向けてやってくる。


「どうするんだよ。あんなのに巻き込まれたらひとたまりもないぜ」

「まあ任せてくださいよ、斉彬さん」

 そう言って徹はウマの群れの方に手に持っているステッキを向ける。


「魔法? 魔法は当たらないんじゃ?」

 そう言う結希奈の言葉に徹は笑みを返す。そして――


「蔓よ!」

 徹の無詠唱魔法スクリプトが起動し、ウマの足元に蔓が伸びる。

 一瞬の後、馬の足に絡みついた蔓が一頭を転倒させた。イノシシの時に使った手だ。


「おおっ、やるじゃないか!」

 斉彬の歓声。


「今だ、今井ちゃん!」

「はい!」


 徹の声にすかさず楓が反応した。美しい姿勢から放たれた矢は寸分違わずその額を貫き、転倒したモンスターは動かなくなった。


「うまい!」

 斉彬の歓声の間にも徹と楓の連係攻撃は続く。

 そうして、至近距離に群れが来るまで三頭のウマのモンスターを倒した。


「次はオレ達の出番だ。気合い入れろよ、浅村!」

「はい、斉彬さん!」

 斉彬と慎一郎がすれ違いざまにウマをなぎ払う。


 ――ヒヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!


「よし、イケるぞ!」

 自分の背丈よりも大きく、しかも体重に至っては十倍以上もある大型のモンスターを両断した斉彬が歓喜の声を上げた。


 しかし――


「斉彬くん!」

「何っ…………!!」

 いつの間に移動したのか、ウマのモンスターたちの後方で悠然とウマの群れを見守っていたバイコーンが目の前まで突撃してきていた。


「くっ……!」

 咄嗟の判断で斉彬は身を投げ出してその突進を回避する。しかし間に合わず、斉彬はその巨体に弾き飛ばされた。


「ぐはぁ!」

「斉彬さん!」

 結希奈がすかさず駆け寄って回復魔法をかける。


 巨大なウマのモンスターは斉彬を弾き飛ばした余力をもってパーティをかき回し、最後尾にいる楓へと向かっていく。


「きゃあ!」

「危ない!」

 楓の身体を横からさらうように慎一郎が飛びかかる。もつれるようにして地面に転倒する二人。


 直後、漆黒の巨体が二人の背後を駆け抜けていった。


「大丈夫?」

 慎一郎が楓の状態を確認するも、楓からの反応はない。何かに驚いたような表情で、大きく目を見開いてこちらをじっと見ている。


「今井さん……?」

「……………………」

 楓の反応はない。

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