真夏のハッピーバースデー5

                       聖歴2026年7月21日(火)


「お待ちかね、今日のお昼よ」

『待ってました!』


 お昼時、モンスターの数が少なそうな場所を選んで車座になり、いつものように結希奈の作ったお弁当を皆で広げる。

 弁当箱の中に入っている茹でたニンジンやブロッコリーに揚げたジャガイモ。それだけではない。それらの野菜たちの中心に鎮座ましましている手のひら大の挽肉料理……!


『は、ハンバーグじゃ!』


 メリュジーヌの瞳が今日一番の輝きを見せる。この大食い竜王が一番輝くのは飯時であるということは残念ながら間違いない。


『は、早うハンバーグを食わせてくれ……! シンイチロウよ!』

 鼻息荒く興奮するメリュジーヌ。その姿はとても歴史に名を残す竜人の王とは思えない。銀髪の竜王は肉体の制御権をもつ慎一郎にハンバーグをねだる。


 そして慎一郎がその口にハンバーグをひとくち放り込むや否や、目を光らせ、恍惚の表情で、

『はうううう……美味い! こんな美味なハンバーグは初めてじゃ!』


「メリュジーヌはいつも大げさだよ。あ、そうだ。今日は紅茶を持ってきたの。今淹れるね」

 上機嫌な結希奈が持ってきた水筒の中身を紙コップに注いでいく。琥珀色の液体から漂う独特の香りが鼻腔をくすぐる。


「この紅茶にこれを入れるというわけ」

 そう言って結希奈が取り出したのはマグカップくらいの大きさの瓶。金属製のふたを外すと、そこにはピンク色のジャムが入っていた。


『ほほう、ジャムじゃな。紅茶にジャムとは、なかなか洒落ておる』

 瓶の中身を覗きながらメリュジーヌがくんくんと鼻を鳴らす。……立体映像に鼻はないはずなのに。


『これはもしかして、昨日の薔薇かえ? ふふ、よくできておる』

「そうそう、昨日あれからこよりちゃんと一緒に――」

「こよりさん!?」

 突然大声で身を乗り出してきたのは斉彬だ。もちろん、「こよりちゃん」の一言に反応してでのことである。


「こ、ここここのジャム、こよりさんが作ったのか?」

 震える手でジャムの入った瓶を手に持ち、こよりに訊ねる斉彬。


「う、うん……。花びらを取ったり、洗ったりしただけだけど……」

「うぉぉぉぉぉ……! こよりさんの……手作りジャム……!」

 斉彬は興奮のあまり、ジャムの入った瓶をそのまま口に入れようとする。


「ちょ、斉彬さん、何やってるんですか! 慎一郎、何やってるんだ。止めろ!」

 慎一郎と徹、男子二人がかりで斉彬を止めようとするが、そのパワーは凄まじく、瓶の中のジャムは今にも斉彬の口の中に消え落ちそうである。


『やめろ! わしのジャムがぁぁぁぁ……!』

「これはオレのだ! こよりさんの手料理は全部オレが食うんだ!」

 奮闘空しくジャムは斉彬の口の中へと入っていく。それを見てメリュジーヌは本気の涙を流す。

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ! わ、わしのジャムがぁぁぁ!』


「むちゃむちゃ……。ああ、こよりさんの手料理……」

 ジャムを食べられて本気で泣く齢三千歳の竜王と、見た目小学生にしか見えない幼女と本気で張り合う身長百九十センチの男子高校生。


「こよりちゃん、これってどうなの?」

「わたしに聞かないで……」

 ジャムを巡って地下迷宮内で大騒ぎする男子達と竜王を横目に、当事者であるこよりは頭を抱え、ため息をつくばかりであった、

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