エクスカリバー6

                       聖歴2026年6月10日(水)


「これが……」

「そう。わりと会心のでき。フヒ、フヒヒヒヒヒ」


 鉱石を集めたあと、姫子は一心不乱に剣を打ち続けてくれた。あまりに熱心に昼夜を問わず打ち続けたために、風紀委員会から厳重注意を受けたほどである。


 紆余曲折あったものの、どうにか慎一郎の新しい剣三本ができあがった。


 鍛冶部部部室の机の上に置かれている三本の剣。見た目は市販されている剣とあまり変わらないが、外の世界と断絶されているこの北高でというのは姫子がつくる以外に存在しない。


 そのうちの一本を手に取り、鞘から抜いてみる。


『ほう……』

 メリュジーヌが息を吐いた。


『これをお主がきたえたのか? ひとりで?』

「うん……いや、はい……そう、です……けど……」


『なかなか見事なできじゃな。わしのおった時代から六百年過ぎているとはいえ、高校生がこれをきたえたというのは賞賛に値しよう』


「そんなにすごいのか?」

 慎一郎は刀身をかざし、様々な角度から新しく自分のものとなった剣を見回しながらメリュジーヌに聞いた。


『うむ。もっとも、普通の鍛冶職人がつくったにしては、じゃ。わしが使っておった伝説の剣に比べれば足下にも及ばん』

「当たり前だろ……」


『いや、そうでもないぞ』

 メリュジーヌは姫子の方に向き直り、言った。


『ヒメコよ』

「あ、はい……!」

 話を振られた姫子がビクッと震える。そして小さな声で付け加えた。

「姫子じゃなくて、外崎って呼んで欲しいんだけど……」


 それは、メリュジーヌには聞こえなかったようだ。いや、慎一郎には聞こえたのだから、無視したのだろう。メリュジーヌはさらに尊大に姫子に告げる。


『さらに精進せよ。お主の素質ならばいずれ伝説に匹敵する名剣をきたえることもできるであろう』


「あ、ありがとう……ござ、ます……」

 あくまで尊大なメリュジーヌを前に、姫子は慎一郎の後ろに隠れてしまっている。しかし、その顔はどこか嬉しそうだ。


『で、めいはなんという?』

「めい……?」


『そうじゃ。シンイチロウの初めての剣じゃ。よい名前を付けてやれ。そこまでが剣匠の勤めぞ』


 あ、そうか……。と慎一郎は気がついた。今まで使っていたものは徹から借りていたもの。この三本が彼にとって最初に持つ彼自身の剣となるのだ。


「名前……? なまえ、ナマエ、名前……うひ……!」

『何かいい名前があるのか? 申してみよ』

 姫子があれこれ考えた後、ひとつの名前を挙げた。


「……エクスカリバー」


「エクス……!?」

 驚いたのは慎一郎だ。何せエクスカリバーといえば歴史に名高い伝説の聖剣。いくら何でも最初からそんな名前は重すぎる……。


 そう言おうとしたところ――


「これがエクスカリバー・壱、こっちがエクスカリバー・弐、そしてエクスカリバー・参」

「三本とも!?」


 頭がクラクラしてきた。自分の剣、しかも初めての剣に〈エクスカリバー〉とは、まるで初めておもちゃの剣を買ってもらった小学生ではないか。やめさせようとしたが、メリュジーヌの一言にそれもできなくなってしまう。


『エクスカリバーか。懐かしい名じゃ。うむ、なら笑って許可するであろう』

 腕に手を置いて笑顔のメリュジーヌ。今聞き捨てならない言葉を聞いたような……。


「ちょ、ちょっと待ってくれメリュジーヌ。ってもしかして……」

『本物のエクスカリバーの持ち主じゃ。一時期、剣を師事したことがあっての。あやつもドラゴンじゃ。知らなかったのか?』


 そうだった。いつも一緒にいることと、目に見える映像が幼女にしか見えないことから忘れがちだが、慎一郎の〈副脳〉に居候するこの人物は歴史上の超有名人だった。有名人同士、交流がないはずがない。


「え、エクスカリバーの持ち主! ふひ! く、詳しく……詳しく聞かせろ、聞かせてく、ください……!」

 姫子が興奮気味に詰め寄ってきた。


『よかろう! あやつはドラゴンのくせに最初はそうと知らず、人として生きておったのじゃ。わしがあやつと最初に出会ったのは……』

 そのまま剣の銘は三本とも〈エクスカリバー〉になってしまったが、晴れて慎一郎は新しい、自分自身の剣を手に入れたのだった。

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