戦士長ゴン
戦士長ゴン1
聖歴2026年6月15日(月)
明け方。ゴンは眠りについていた。村では戦士達が昼夜を問わず巡回を繰り返している。申し訳ないと思う気持ちはあったが、彼は今休まなければならない。戦士達のすべてを村の守りにつかせているので、食料調達は彼の双肩にかかっているのだ。
そうは言っても深く眠れるものではない。もともとの戦士の
それでもようやく眠りについた。そんな頃、“奴”はやってきた。
激しい衝撃と大地を揺らす轟音。村の家々をなぎ倒す音、戦士達の怒声、女子供の悲鳴。そして“奴”自身の泣き声。
一瞬のうちに覚醒し、上着と愛用の槍を手に音の方へと走る。彼は一族いちの戦士であると共に一族いちの健脚の持ち主でもある。
しかし、その彼をもってしても現場にたどり着いたときにはすべてが終わっていた。
「ひどいっす……」
そこは嵐の後のような有様だった。
無残に破壊された家々、荒らされた畑、大地に大きく穿たれた巨大な足跡、呆然と立ち尽くす男、泣き崩れる女。見たところ、怪我人がいなかったのが不幸中の幸いだといえるだろう。戦士を昼夜問わず巡回させているのが功を奏していた。
それでも、それでも……。
「…………」
ゴンはあたりを見渡した。惨禍を目に焼き付けるため、そしてこの怒りを忘れないために。
「兄貴! 血が……!」
駆け寄ってきた部下の戦士が驚いたように言った。
気づかぬうちに口の端から血が流れていた。あまりの口惜しさに無意識のうちに唇を噛んでいたらしい。
口を拭い、破壊現場に背を向けて歩き出す。
「どちらへ……?」
「後は任せたっす。おいらは……」
ゴンの足は自然と速くなる。そのまま駆け出し、腹の底から決意を絞り出す。
「“奴”はおいらが倒すっす……!」
怒りに燃えるゴンの耳に仲間達からの静止の声は入ってこなかった。“奴”を倒すまで村には帰らない。その決意に胸をたぎらせ、地下迷宮を駆ける。
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