ムシムシだぜ
定食亭定吉
1
夏がきた。都内とはいえ、街路樹には時たま、カブトムシがやってくる。
京急線と並走する国道15号沿いの街路樹に市販の樹液を街路樹に垂らしておいた。小学生にさえ、奇異な眼差しを受ける男、カズキ。真夏の昼下がり平日。三十代前半の男が麦わら帽子に使い古しのズボンをカットしたハーフパンツ。白ティシャツの姿で飼育ケースと虫採り網を持つ。
「ムシムシだぜ!今日も虫を採るぜ!」
同じシェアハウスのシェアメイト、ヒロミがやって来た。彼の事が苦手なので雲隠れしたカズキ。そこから、ヒロミの姿を偵察。
「何やっているの?」
通行する小学生に話しかけられる。
「カブトムシを採っている。よし!俺の肩に乗れ❗」
ヒロミは小学生を肩車してカブトムシを採らせた。虫網の中に何匹かカブトムシが捕獲された。
「すごい❗」
「初めて見た」
「やるぞ!全部!」
「えっ?いいの?ありがとう」
「おー」
「じゃあ、お兄ちゃん、僕の家、来て!」
彼は見知らぬ人物と関与するなと、教育されてないようだ。
カズキは彼らの後を尾行する。うまく距離感を保ち。
「えっ?君、うちの物件と同じ建物に住んでいたの?」
驚くヒロミ。
「えっ?」
少年は理解出来ず。
「ごめん、用があるから」
これ以上、なつかれても困ると思い、引き離そうとするヒロミ。
「いいでしょう?お父さんもお母さんも留守だから」
「わかったよ。後、少しなら」
子供のワガママを感じたヒロミ。
マンションの棟はエレベーターなしの四階建て、築四十年ぐらいである。ヒロミらが暮らすシェアハウスの隣部屋に、少年は暮らしていた。
「お邪魔します」
ヒロミ28才。いつもはアホをやっているが、さすがに我に返った。
「うん、上がって」
変声期を迎えていない高い声。ヒロミは彼の家に上がる。彼の両親が不在だったのは安心だった。しかし、いつもの幼さが出て、色々と物色してしまう。
「お兄ちゃん、オウチの人に言われなかったの?」
彼の説教を食らうヒロミ。
「あ、ごめん」
キッチンにかけてある家族写真。どこかで記憶のある人物と感じたヒロミ。
「あ、また電気消していない」
どこか子供なげなさを感じるヒロミ。
「お兄ちゃん、何のお仕事しているの?」
唐突に突っ込まれるヒロミ。
「何もしてません。毎日が夏休み」
「そうなの?僕が学校始まっても?」
「うん。きっと」
ヒロミなりに悲しみに耐えて答える。
(ガシャン)
その時、ドアの開閉音がした。
「ただいま。あれ、何でこっちに?」
カズキは少年の父親だった。
「あーあんたこそ❗」
お互い驚いたが、それ以上、話しはしなかった。
ムシムシだぜ 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi
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