水墨の森

「何をなさってるの」

その男は何も答えなかった。ただ大木の麓に腰掛け、目を閉じていた。右手には刀が見え、微かに血の臭いもする。

「人を斬るの。何の為に」

男は何も答えない。否、今は答えられないのかもしれない。


少女は男に近付くと、自らの衣の袖口で、侍の頬についた錆を拭った。

「御武運を」

「……かたじけない」


以来男は煙のように、私の心にまとわりついて離れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る