第13話 トランプ・ジャズ
かちゃかちゃと音を立てているのは、手の早い捕食者だ。
まだ全員席についていないというのに、ただ黙々と、左のナイフで肉を切り、右のフォークで鶏の腹を突き刺していた。
「っもう、マナーがなってないなぁ。食べるのはキャストが揃ってからって、教わらなかった?」
「……残念ながら、ワタシは今回の一件には不参加なのでね。君たちだけで楽しんできたまえ」
かつんかつん、とブーツの足跡が鳴る。
指を一本天井に突き立てて、銀の少女は捕食者に不満を言った。対する捕食者――黒服の男は、両手の銀食器を一度皿の上に手放すと、低く響く声で答えた。
少女はふぅん、とさして興味も無さそうに窓の外を見ていた。そこには澄んだ青空もなければ、美しい庭もなかった。行き場のない黒が、ただただ四角を閉じ込めている。
「ねぇ」
「なにかね」
「来るかな、◇◇◇。……ここ最近、食べてないんでしょ。いくら力が強いからって……」
「意外だな。キミは◇◇◇を心配しているのか」
先程の威勢が嘘のように、弱々しく言葉を辿る少女。その様子に、男はただただ驚いてしまった。
そして、「彼女の娘を狙っているキミが、母たる彼女を案じている――実にナンセンスだ」と冷静に、しかし笑みを浮かべながら言いもした。
「あぁ、失礼。娘を狙っているのは、キミの兄だったね」
「……そうよ」
「その顔。よもや兄妹喧嘩でもしたかね」
「……違うわよ」
少女の表情の曇りは明らかで、男はどこか安心を覚えながら「素直なレディだ」と、空いた椅子を指差した。
少女はしぶしぶ、男の誘った椅子に動いた。
「……兄貴の様子が変なの。最近、異様に魔法を――力を使うようになった」
「言葉による“縛り”。使えば使うほど、自分自身も殺してしまうと教えたはずだが」
「……」
“お話中失礼致します”と、丁寧な挨拶と共に温かな食事が運ばれてきた。
「置いといて」と少女が短く答えれば、フクロウのウェイターは恭しくお辞儀をし、食事をテーブルに置いて去っていった。
メインディッシュの皿の下には、一枚の薄いトランプが挟まっていた。
「おっと。もうこんな時間か」
男は、胸元から懐中時計を取り出すとすぐにしまった。
「ごめんね、引き留めて」
「ワタシも少し調べてみよう。彼ら彼女らのことを」
「ありがと、教授」
残された少女は、回りの椅子が埋まるのを静かに待つことにした。
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