第12話 銀の雨

夜。

人が――生身の女が受け続けるには、いささか冷たすぎる雨。吹きさらしのそれが止む気配は、一向になかった。


剣を握りしめる右手は、とうに痺れて使い物にならない。

そうわかっていながらも、女は対峙する男とのにらみ合い――依然として膠着状態にある――を放棄することはなかった。


否、女が逃げる道などありはしない。

正面に立つ白服の男が、それを許さないからだ。


「生身の状態で、よくここまで耐えるものだな。“時計”を使えば、俺を退けられるかもしれないというのに」

丁寧でいてどこか毒味のある紳士は、

私に呆れる様子もなく、ただ率直に言葉を投げ掛けてきた。


かん、ころろ……と男の足元には弾丸が落ちた。銀のマグナムは、灯りのない路地でも一段と異彩を放っていた。

「それとも。先に“あちら”を始末した方が早いか?……あなたはどう思う、××××」

「……!!」

男が私の名を呼んだ瞬間、肺を強く締め付けられた――ような感覚に襲われ、ぐらりと足元がぐらついた。


「ふむ。その様子……やはり“これ”だけでは名前として不完全のようだ」と、白服の男はまるで実験者……化学者のようにそう呟いた。


「けれど、“彼”はあなたの妹さんが狙っていたでしょう。勝手に横入りしたら……」

「俺が先に切られてしまうな」

二丁の銃を、くるくると指先で器用に回す白服の頬が、わずかに緩んだ。それはいささかお転婆な妹を見守る、兄の顔であった。


時折、女……シンガーはわからなくなる。自分と“彼”を追ってくる魔術師たちの本性が。シンガーと顔見知りの者も多いし、更に言えば“彼”のことも前から知っていたかのような口ぶりである。


「……△△△。あなたの望みは何?」

「“望み”?」

「あなたたちは、ただ駒として使われているにすぎないのでしょう?その体と心を黒く削ってまで、何がしたいの」

「……それはおまえもだろう、××××。成し遂げたいのは、時の歯車を狂わせた俺たちへの復讐か」


男の手から放たれる弾丸の嵐は一層激しさを増し、シンガーの頬を掠めんばかりの勢いで、着実に退路を塞いでいく。

「いいえ。私の望みは、ただひとつ」

そう微笑むシンガーの目先には、月を隠す黒い銃口が一つ、揺れていた。

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