第11話 獅子の琴

「……だから“気を付けろ”って言ったんだ」

まるで言い付けを守らなかった子どもを諭すように、やれやれ……と黒髪の男はもう一人の男を見た。


背は同じぐらいだが、体躯や髪の長さの違いは一目瞭然だ。はたから見れば、黒獅子と金豹が対面しているように見えるだろう。

しかし、不思議と空気に緊張はなく、黒獅子が一方的に突っかかってきているようだ。


「わざわざそれを言いに来たのか。……世話好きだな」

「お前に消えられちゃ困るんだよ。……いじるやつがいなくなる」

「退屈なら、何処へなりと足を伸ばせばいいだろう」

「生憎、俺はお前と違って暇なんだよ」

「それは知らん」

金豹ーーもとい金髪の男は、黒獅子の態度に萎縮することもなく、淡々と言葉を返した。


「なあ。……なんか面白い話ねぇか?

まぁ、別に話じゃなくて素材とかでも……」

黒獅子がそう言いかけたとき、金豹は何処からでもなくコインを取り出し、黒獅子の鼻先へ突き付けた。

「まさか、手ぶらで来たわけではないだろう?」

「……そう来ると思ったぜ」

髪の隙間から覗いた赤い眼光を、黒髪の男はしっかりと獲物として捕らえた。


「“星の一族”の子孫が居るらしい」

「……それは、この世界なのか」

「んー……多分な。外の世界にも居るだろうが、まだ俺も会ったことはねぇ」

ふむ、と金髪は顎に手を当て、テーブルの上で湯気を立てるココアの、渦巻く水面を見つめた。


「けど、きっとそいつらも魔術師に狙われてる。武力こそ高くないが、魔法で言うなら“月の一族”と並ぶぐらいだ」

「……」

「お前、あとどれぐらい残ってるんだ?」

黒髪は、飲み干したコーヒーを足すこともなく、そう静かに問いかけた。金髪は、答えなかった。


「惚れたか」

「……」

「森を火で焼いてまで、何で助けた。依頼主だからか」

まただ、と金髪は目を細めた。この男は怒っている。それは“忠告を聞かなかったから”ではなく、今後の“結末”に関わることでだろう。


「……最初は、そうだった。そうだと、思っていた。けれど正直なところ、俺にもわからない」

豹はそう弱々しく、小さく獅子に呟いた。

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