第5話 閃電(せんでん)のバーテンダー

「面白い。次にお前さんが来るときは『女を連れてくる』っつう俺の読みは当たったらしいな。」


「……青を二つだ。」

「了解。……相変わらず口は達者だな。で?仕事に女連れか」

「彼女は、今の雇い主だ。」

「へー……それはそれは。でも、運がないな。よりによってお前と引き合うとはねぇ」


「いや、違うか」と一人納得したバーテンダーは、男の手元にすっ……とグラスを差し出し、「お前しか残らなかったんだな……?」

男の片目を見て静かに問う。


「俺の名を知っているぐらい裏では有名な奴等が、ことごとく消されたらしい。」

「これはまた、難易度の高いミッションだ……やれるのか?」

「また賭けか。店が潰れるぞ」

「……安い挑発だ。生憎、エンディングがわかってる映画に興味はないんでね。」


ふん、と男が一口カクテルを含んだとき、バーテンダーはカウンター側の照明を最小限落とし、その視線をステージに向けた。


星空の髪のシンガーの声が、小さなバーに響き渡る。ぱっと見ればまだ幼さの残る少女にも見えるが、薄桃のルージュにエメラルドの瞳。他に類を見ない天使のメロディを生み出す姿は、紛れもなく女だ。


ステージを終えたシンガーに、バーテンダーは青い海のカクテルを贈る。

「……きれい」

「ステージで歌うあんたには負けるさ」

バーテンダーの言葉に、シンガーは困った顔で首を左右に小さく降った。

「嘘は言っちゃいないがな」と言葉を返すバーテンダーは一度だけ男を見たが、すぐに視線をそらされた。


「ありがとう。歌わせてくれて」

女は声を潜めて、低く早口ぎみにそう言った。ウェーブのかかった艶やかな髪が揺れ、より一層女を引き立てる。

「……お安いご用さ。」

バーテンダーはいつになく上機嫌だ。


「さて、お前さんの持ってるカード2枚。引かせてもらおうか」

「……話が早くて助かる。これを、届けてくれ」

男はコートのポケットから白い巾着袋を、襟の裏から鍵をそれぞれ取り出し、カウンターテーブルの下、僅かな隙間からバーテンダーに預ける。


「これで、お互いドローだな」

「……次は何を賭けるつもりだ?」

「そうだな。……次に来るときは、お前さんの“両目”が見れる。どうだ?」




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