第2話 束の間の談笑~霧の町にて~

「まぁ待ちたまえ。今とっておきの紅茶を淹れるから」

「……コーヒーじゃないのか?」

「それがね、聞いておくれよ。つい数日前からどうしても片付けなければならない案件があってね。徹夜のためにコーヒーを流しこんでいたら……」


息継ぎもせず、マシンガンのように放たれ続けていた男の言葉が途切れた。……と思った次の瞬間。この世の終わりのような顔をして。

「とうとう味がわからなくなってね」

「寝ろ。……同居人の気苦労を増やすな。」

黒いベストを着た男に灸を据えられると、「それは重々承知さ……」とパイプをくわえて素知らぬ振りをする。


「君も、レディに気苦労をかけないようにね」

「心配いりませんよ、探偵さん」

男にウインクを飛ばした探偵に、私はつい笑ってしまう。ここに来ると、賑やかだが心地良い。


「でも、二人に会うの久しぶりで、とっても嬉しいの!クッキーもあるから沢山召し上がれ♪」

同居人の女の子が、とびっきりの笑顔と一緒に、温かい紅茶と山盛りのクッキーを運んできてくれる。


「ありがとう。今度レシピを教えてくれない?」

「もちろん!この前、素敵な歌をレコードに録らせてもらったし」

「いつでも来てくれたまえ。こんなことを君達に頼むのは忍びないんだが……」

そう言って、帽子を深く下げながらあいつは俺に手紙を渡す。


「気にするな。俺もお前も、仕事なのだから」

ビジネスパートナーとして、小さな友人として。また探偵と少女に会いに来よう。

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