情報屋とバーシンガー

なでこ

蝋燭の炎

第1話 蜘蛛と月時計

「必要としてくれる人が居なくなったら、俺は消える。」


存在するのに、人から隠れている時間の方が長いものがある。

見つけてもらえなければ、青い鳥は幸せを運べない。でも見つからなければ、四つ葉のクローバーは幸せで居られる。


「……私は、あなたを探して良かったのかしら」

勿論、とあなたは初めて笑みを浮かべ、私の髪にキスをした。どくん、と時計の針が脈を打った。


林檎を食べた、黒い鳥。振り子の音だけを信じて鳴くの。


「良い香りだ」と、珍しく彼が紙の束から顔を上げてやってきた。

「この間、お世話になった宿で教えてもらったの。」

テーブルの上に、砂糖の雪をかぶったガトーショコラが並ぶ。傍らには生クリームの雪だるま。

あなたが湯を注いだブルーマロウは、ポットの中を一瞬で青い海に変える。

仕上げに、ちょっとの蜂蜜とミルク。


「ココアじゃなくて良かったの?」

「今回は乾燥地域で堪えただろう。歌はお前の命だ。声は大事にしてくれ」

「ありがとう」

逃走旅の最中のティータイムは、いつも幸せに溢れている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る