第45話 神様との再会

 マヤ達スピーディ一行の活躍により、魔王は討伐された。

そして、魔王の消滅を確認してからほどなくして、急に周りの景色が白くなる。

約束通り魔王を倒したので、どうやら神様によって隔離部屋へ召還されたようだ。


 ちなみに、魔王として異世界転生していたパパも一緒にこの場に召還されている。

魔王の姿ではなく、元の人間の姿に戻っているようだ。

パパに興味なんかないけど、さすがに消滅したんじゃ後味が悪いからねっ!


 そういえば、今回の異世界冒険中に神様からの呼び出しは一度もなかった。


 昔のマヤであったら『神様からの呼び出しがなかったんだからこれは違反行為じゃない。気づかれないようにやったもの勝ちだ!』と強弁していたかもしれない。


 しかし、今回の冒険はマヤにとってとても勉強になり、考え方などにいろいろ影響を与えたようだ。神様も、おそらくのだろう。


 違反行為チートの利用は世界のバランスを崩し、システムの運営者や他のユーザーに多大な迷惑をかける行為だ。


 こんなものがはびこる世界は、まともな競争がなくなり一般のユーザーが興味を失ってしまう。その先にあるものは滅びの道だろう。

そもそも、一プレイヤーとしてゲームの面白味を感じられているのだろうか?


「(このままではだめよね。これからはチートを捨てて正々堂々と戦うって決めた!

 まずは神様に正直に告白するしかないわね!)」


 神様に正直に告白してチートの使用がバレるということはつまり、次回はハードモードになって二周目のステージへ突入ということも充分あり得る。


 きっとその時にはチート対策済になっているだろうから、今回のようなスピーディな展開は無理だろう。マヤの言葉通り正々堂々と戦う必要がでてくる。

それでも、チート行為をしてまで他人より優位に立つのはなしだ。

これからは正々堂々と生きると決めたのだ。


 そんなことを考えていると神様より、勝利者のマヤに声が掛けられる。


「勇者よ。今回の冒険はどうでしたか?」


 マヤは、今の素直な気持ちで神様に告白する。


「はい。今回、短期間で魔王討伐に成功したのはチートスキルを利用したからです。弁解は致しません。

何卒、もう一度チャンスをお与えいただけないでしょうか?」


 日本では『チート』という単語が反則的な強さの例えとして誤用されている雰囲気がある。『チート』の本来の意味は『ズルをする』とか『騙す』といった内容だ。


 サイバーな世界では、本人同士が直接顔を突き合わせなくても取引や決済等を行うことが一般的になり利便性が大きく向上した。その前提にあるものは、これらの取引や決済等がセキュアな環境で行われ第三者が入り込む余地がないのと、サービス提供者によってリスクを担保されているからだ。


 もし、ここに不正行為が入り込む余地があり、リスクの担保が万全ではなく取引や決済等が後から不成立になることがあるのだとすると、そんなサービスは誰も信用せず利用されなくなるだろう。


 今までは特定のゲームシステム内に閉じる話と考えて気軽にチートに走っていたかもしれない。しかし、世の中のサイバー化が進めば進むほど、どんどん両者に差はなくなっていく。


 今回の冒険を経て、マヤはチート行為に手を染めることがどれだけ世の中に影響を与え、どれだけの人に迷惑をかけるのか何となく見えてきたようだ。


 神様は、考えるようなそぶりを見せるが一旦回答を保留する。


「…なるほど。あなたの考えは理解しました。

それでは魔王よ、あなたは今回の冒険をどう感じましたか?」


 パパは、素直な感想を口にする。


「はい。自分の出世が滞り分が悪い状況は機会が与えられないせいだと不満を持っていました。しかし、今回の冒険でそれは間違いだと気づきました」


「私は、会社役員や魔王として周りから持ち上げられる状況を当然のことと考え慢心し。自助努力を怠ったことで世の中の流れについていけなくなっていたのが敗因だと、今回の冒険で気づくことができました。私にも、もう一度チャンスをお与えいただけないでしょうか?」


 IT 業界の動きや技術革新はとても早い。また、不具合や脆弱性の全くないソフトウエアやシステムを作ることは非常に困難だ。適宜情報収集を行い状況を把握し、必要に応じてソフトウエアやシステムの更新など継続して対処をする必要がある。


 また、新しい技術だけに目を配らせ古い技術を疎かにしていいという訳ではない。コンピュータサイエンス等の基礎技術は把握した上で、雨後の筍のように出てくる新しい技術を取捨選択する。そして、選択すれば完了ではなく、選択したものについては継続して情報を収集して維持、運用を行っていかなければならない。


 現状に満足して慢心して努力を怠ることがなければ、今回のような一方的な敗北はなかったはずだ。今回の敗北によって、よい気づきの機会が与えられたという訳だ。


 神様は、二人の心情の変化を掴み満足そうにこう回答する。


「あなた達の希望はわかりました。お二人の意識改革が進んだようで何よりです。

 では、あなた達にふさわしい世界へお送りしましょう。ズギャーン」


 こうして再び、マヤ父娘は新たなステージへと旅立つこととなる。

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