第44話 魔王の倒し方

 スピーディ一行は、魔王のリフレクション&アンプ攻撃を看破した。

これで、こちらからの攻撃魔法を反射、増幅されることはなくなり少しずつとは言え魔王にダメージを与えることができそうだ。引き続き、両者に緊張が走る。


――――


 四天王の残りは階層主として持ち場を動けないため、魔王一人と戦えばよいのかと言いたいところだが、実際のところそうはいかない。


 『魔王の間』に勇者がやってくるということは、魔王軍としては最終決戦場だ。

四天王ほどの強さではないにせよ、ここでの勝敗には魔族の未来がかかっている。

そのため、魔王に加勢しようと魔族兵などが駆けつけてくる。


 そのため、マヤを除くスピーディのメンバーには、これらの対処をお願いした。

言いかえると、という算段だ。


 相手がパパだということは、本質はさほど変化がないに違いない。相手の弱点は把握済だ。口喧嘩でパパに負ける気はしない。マヤは、再び魔王を煽り始める。


「てゆーか、魔族って変な臭いがするんですけど?話しかけないでもらえますか」


 魔王は、激しく苛立ちをあらわにする。


「身体的特徴での批判は反則だろう。まったく、親の顔を見てみたいものだ!」


「親の顔を見たければ好きなだけ鏡をみればいいじゃない。

 でも自分の顔なんて見たくないわよね!」


「だから身体的特徴での批判はやめろって言っている。モラハラだぞ!

 話しているのが俺じゃなければ今頃あの世行きだ!」


 昔から親子喧嘩になるといつもマヤに言いくるめられてしまう状況が続いていた。

そのためか、この世界に来る前でも必要最低限の会話しかしなくなり、冷戦状態に突入していた、ここまで口論になったのは初めてではないだろうか?


「お前は俺を怒らせた!いいだろう。。覚悟するがいい!」


――――


 魔王に空中を使った飛行攻撃や回避行動に走られるととてもやりずらい。

殴り合いによる勝負へ誘導と、今のところマヤの思い通りに魔王をコントロールできているようだ。


 魔王の方が勇者より圧倒的に身体能力が優れていて、体力勝負に持ち込み殴り合って負けることなどあり得ないと考えているのだろう。一般的にこれは正しい。


 しかし、魔王の判断は調。本当に覚悟が必要なのは魔王の方だ。


 純粋な殴り合いで体力勝負になった時に勝つのは、身体能力の優れた方だ。

この認識は正しい。しかし、戦闘時のマヤの身体能力が魔王より下だと勝手に決めつけていて大丈夫なのか?


 つまり、相手に気づかれないままという訳だ。


 過去魔族に対して『カミカゼ』を使ったことはあるが、今までは単発でしか利用したことがない。切り札を多用してしまうと相手に行動パターンを把握されてしまう。


 実は使事実に魔王は意識がいっていないようだ。きっと驚くことになるだろう。


――――


「ば、ばかな。するなんて卑怯だぞ。それでもお前は勇者か!」


 マヤの『カミカゼ』108 連発により、魔王のHPは大きく削り取られる。


 もはや風前の灯火だ。魔王の頭の中を、過去の記憶が走馬灯のように駆け巡る。


「そういえば、こいつマヤは昔からこういう遠慮のない娘だったな。完敗だ。無念…」


 マヤは小学校高学年の頃には既に最強ゲーマーの肩書を欲しいままにしていた。

父親相手でも一切遠慮をすることがなく、ゲーム世界の自分程度では一切歯が立たなくなってしまっていた。


 そして、その後いろいろとすれ違いがあり、一緒にゲームをプレイすることはなくなってしまった。


 その時の腹いせと言われてしまうのはかなり不服だが、マヤに対してゲームを一日一時間に制限したりスマホを与えないなど厳しい環境に置いた。


 このままゲーム世界に没頭するのを回避したかった父親の思いが多分にあるが、ゲーマーとしてのマヤの才能に嫉妬していなかったと言えば嘘になる。


 しかしまさか、その境遇を逆境にしてチートスキルを磨いていたとは…。

そして、チートスキルを身につけるために必要に迫られてコンピュータサイエンスの知識を極めていたとは…。あらためて驚きを禁じ得ない。


 その結果、今や父親を超える才能ITスキルを身につけているようだ。


 今さらながら、我が娘マヤは末恐ろしい才能の持ち主なのだと気づく。しかし、もはや後の祭りだろう。


 魔王としての身体消滅を目前に、いろいろな考えが頭を巡る。


「ああ、そういうことだったのか。俺はのだな。

俺の特性は…そうだな。才能のある者を引き立て気持ちよく仕事をさせるための環境を作る裏方といったところか。分相応をわきまられていなかったのだな…」


 組織というものは、多様な才能の持ち主を集めることで成り立っている。環境整備も重要な仕事だ。そこで能力が認められ、今のポジション役員の末席まで取り立てられたということだ。目立たなく苦労が多いが、決して評価されていない訳ではなかった。


 いい気づきの機会が与えられたが、せめて死の直前ではなくもう少し早く気づきたかったものだ…。魔王はもはやこれまでと観念する。


 そして、ほどなくして勇者マヤの手によって魔王はとどめをさされ消滅する。


 魔王は敗北し、異世界は魔王の悪の手から救われたのだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る