第41話 冷却機構はとても重要

 自律型攻撃システムや階層主との戦いをスルーしたスピーディ一行だが、そのままの勢いで魔王の間に乗り込むのは憚られた。


 動力源が残っているということは、魔王の間に到着するまで継続して自律型攻撃が続くだろうし、魔王のMP回復にも役立ってしまう。


 おそらく、魔王はかなりのHP、MPを持っているだろう。

せっかく渾身の攻撃を続けて魔王のHPを削ったのに、戦闘途中にMPが自然回復して超強力な回復魔法を何度も使われほぼ無傷というのでは正直やっていられない。


「というわけで、動力源のアーティファクトをぶっ潰すわよ。まずは瘴気がどこへ流れ込んでいるか見つけなくっちゃ!」


 マヤは、魔力感知スキルを活用しておおよその方角を掴む。そして、瘴気をMPへ変換するを画策する。


 大量のコンピュータを手っ取り早く停止に追い込もうと思ったら、コンピュータの動作に必要な電源供給を止めてしまう方法が考えられる。

車でも同様だ。動きを止めたければ燃料をすべて抜いてしまえば機能しなくなる。


 大掛かりな物理破壊工作をしなくても機能停止をさせることができ、この方法ならばかなり被害を与えることができるはずだ。


 これらと同様に、アーティファクトを機能停止することで、攻撃システムの活動を止め魔王のMP回復速度を遅くしようという訳だ。


 しかし、そこが弱点になることは誰の目にも明らかだ。

重要な設備に関してはデータセンター内のような堅牢かつセキュリティレベルの高い区画に置くのが一般的だ。


 例えば、自家発電装置や無停電電源装置が設置され商用電源も異経路で複数引き込むなど、簡単には電源供給が止まらないよう対策がされている。


 当然、魔王城の中でもこのアーティファクトは重要な設備のため、重点的に守りを固められているようだ。機能停止どころか、うかつに近づくことも危険だ。

魔王との戦いの前に、なるべく大規模な戦闘は避けたい。何かよい手はないものか。


「そうだ、一ついいアイディアが浮かんだわ。私に任せて!」


 マヤはある作戦を思いつき、情報収集を開始する。


――――


 そう、マヤは気づいてしまった。


「アーティファクトは厳重に守られているけど、しないかしら?」


 電力を使って何か仕事をさせる場合、一般的にエネルギー変換効率が 100% ということはない。損失が存在する。


 例えばコンピュータの場合、電子回路を通るたびに損失が発生して、副産物として損失分の熱が発生する。


 そして、放熱をしないと耐熱温度を越えて機器が故障してしまうため、何らかの冷却機構を準備して冷却を行う必要がある。


 車でも、エンジンにはラジエーターが装着されていて、もし冷却が間に合わなければオーバーヒートして走行不可能になってしまう。


 つまりだ、瘴気から魔力への変換にも損失があり、のではないかと推測する。


「やっぱり。あまり近づけないから細かくはわからないけど、地下水脈から水をくみ上げて水冷方式をとっているようね」


 以前、ヤマタノオロチと対戦した時もそうだったが、冷却が間に合わなくなるといろいろな不都合がある。


 熱による故障を避けるのであれば、性能を劣化させたり機能停止をすることで発熱を抑える動きをする。


 今回は、変換効率を劣化させるだけではなく、できればさせてしまうのがよさそうだ。


 直接は関係ないが、福島第一原発の事故も冷却装置の電源喪失による機能停止が元で大事故に繋がっている。


 そう。ことがある。


「というわけで、狙うは地下水よ。みんな協力をお願い!」


――――


 スピーディ一行は、極力敵と遭遇しない場所を選びつつ地下水脈を探り当てていく。さすがに、地下水だけあってかなり冷たい。


「さて、一旦は水温をあげるわよ。炎系の魔法はガーネットよろしく!」


「しばらくしたら、凍るくらい低温にして。氷系の魔法はフランソワーズお願い!」


 ずっと高温にしておけばいいんじゃないの?という意見もあったが、当然魔王軍側にも魔法が使えるものがいるだろう。


 温度だけの問題であれば、異常に気付いた魔王軍が地下水の利用をやめ最悪手動冷却に切り替えられてしまうかもしれない。


 何しろ、魔法が使えるのだ。短時間であれば温度の上げ下げは地下水に頼らなくてもできてしまう。


 今回マヤは、短時間で温度変化を発生させ魔王軍に水温の高低からは目を逸らさせ、別の部分を狙うこととする。


 この手の装置は、耐熱温度の制限もあるが、それとは別に単位時間内の温度変化に弱いものが存在する。


 例えば、結露発生による機器故障であったり、熱膨張、熱収縮による変形に弱かったりする。普段発生しないこの微妙な変化が、案外故障を発生させたりするのだ。


「やったわ。魔力の流れが弱まったようね。修理にはしばらくかかりそうね!」


 これで、地の利を生かし魔王軍のみ有利という状況は緩和された。


「いよいよね。魔王よ、首を洗って待っていなさい!」


――――

 教訓: 冷却機構を軽視しないこと。これが原因で大惨事に繋がる場合があります。

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