第42話 勇者と魔王の衝突
自律型攻撃システムやMP回復の動力源になるアーティファクトの機能停止に成功したスピーディ一行は、さらに魔王城下の奥深くまで進む。
『魔力感知』スキルでひときわ巨大な魔力を感じる…あれが魔王の間で間違いない。
魔王の間の所在が掴めたのであれば、魔王の隙を見て奇襲して優位に進めるという選択も考えられる。しかし、この戦法のみではおそらくうまくいかない。
なぜなら、こちらが魔王の所在を魔力感知スキルで確認できるということは、魔王も勇者の所在を何らかの方法で把握できて当然だろう。
それであれば、奇襲や奇計などは使わず堂々と魔王の間に乗り込み、お互い禍根の残らない形で雌雄を決するのも悪くない。
「万全の態勢で臨むわよ!。ポーション利用は惜しまず全員全回復させておいて!」
「よっしゃー。切り込みはウチに任せとき。もたもたせんと行くで!」
「無駄死にはまあいかん。支援魔法はちゃちゃっとやろまい!」
「攻撃魔法はせやぁーないよ。魔王ええ加減にせぇや。そんぐらいにしとかんとぶちまわすど!」
万全の体制となったスピーディ一行は、堂々と魔王の間へと足を運ぶこととする。
――――
スピーディ一行が魔王の間に近付くと、魔王も勇者達の存在に気づいたようだ。
まだ遠目にしか姿を確認できないが、どうやら対話を望んでいるように見える。
「勇者共よ。よくここまでたどり着くことができたな。褒めて遣わそう。しかし、俺を倒そうなど 100年早いわ。まずはその間抜けな面を見てやろうではないか!」
スピーディ一行は魔王との対決の覚悟を決める。
「どないしよう?。突撃しよか?」
「ちょっと待って。魔王と会話できそうだから、一度話してみましょう。
みんなは一旦様子見でお願い!」
そして、マヤを先頭に先へ進み魔王の正面に対峙する。ま、まさかお前は!!!
「ちょっ!。パパ、こんなところで何やってんの???」
なんと、魔王の正体はマヤの父親であった。転生前の話だが、最近では毛嫌いしてほとんど会話をしていない。復活した魔王がまさか父親とは…。
大手IT企業の役員末席までは出世したものの、最近ではあまりうだつが上がらなく家族から冷ややかな目を向けられていた男だ。
つまり、二人は異世界全体を巻き込むほどの壮大なスケールで親子喧嘩をしていたという訳だ。
当人達に今まで一切そんな意識はなかったのだろうが、もはやそんなことも言っていられない。お互い、この世界に来た目的を果たさなければならないのだから。
――――
魔王は、若干の驚きを見せつつも高圧的な態度で会話を始める。
「まさか、マヤが勇者の一味で俺を退治に来るとは…なるほど、そういうことか!」
確かに、
この知識を使って、四天王を手玉に取ることも不可能ではないだろう。
勝利のためならあらゆる手を使い、必要であれば家族をも切り捨ててネトゲを優先する奴だ。正体を知った上で考えればさほど驚きはない。
魔王が抱えていた疑問の一つが解消した瞬間であった。
そして、わずかではあるが親子の情を見せ、魔王はマヤに対して一つ提案を行う。
「マヤよ、俺の強さはわかるだろう。俺の部下になって一緒に世界を征服しないか?
褒美として世界の半分をくれてやろう!」
しかし、マヤは即答する。この異世界に未練はなく、長居をする予定もない。
「そんなものいらないわよ。そんなことより、さっさと日本に帰ってネトゲの続きがしたいんだけど?」
いつもの言い草のマヤに魔王は少しだけ父親モードに戻り、会話を続ける。
「お前なぁ。いったい誰の稼ぎで生活しているのか理解しているのか?
この世界に来て勇者や魔王という絶対的な力を手に入れたんだぞ!未練ないのか?
世界を自分たちの手中に収められるんだぞ。一体何に不満があるというのだ?」
普段からこの手の言い争いになった時は、だいたいマヤ優勢で話が進んでしまう。
この辺りが災いして、転生前に親子の会話数は激減しており、会話内容も必要最低限なことだけに留まるようになってしまった。そして、すれ違いはさらに続く。
「それは、パパが欲しいだけでしょ?私は魔王を倒してさっさと日本に戻りたいの。
だから、私に倒されて魔王の首をちょうだい!」
日本にいた頃であれば、大人である父親が一歩譲るのが常識だったかもしれない。
しかし、魔王の立場で今回の要求は受け入れがたい。魔王としての意地もある。
そして、父親として傲慢な態度の娘に対する指導も必要だろう。
「ありえんな。俺はこの世界を統一して皆に俺の卓越した才能を知らしめて見せる!
娘との再会だから話を聞いてやったものの、全くもって話にならんな!」
そして、二人は同じ結論へ到達した。時にはぶつかり合うことが必要という訳だ。
「つまり、対立は避けられないという訳ね。パパが私に勝つなんて100年早いわ。
よーし。みてらっしゃい!」
「そうだな。娘だと思って今までは俺が遠慮してやったが今回ばかりは容赦しない。
俺の本気を見せてやろう。かかってくるがいい!」
こうして、異世界をも巻き込んだ前代未聞な親子対決が開始されることとなった。
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