第39話 最終決戦前夜

 アンダーゲート要塞を取り返したスピーディ一行であったが、物資の多くは魔族によって持ち出されてしまった。


 脱出に気づかれないように魔族が移動していたため、物理的な破損はほとんどない状況だが、魔族と対峙する際の防衛線として機能復帰させるためにはいくらか時間がかかりそうな状況だ。


「いい覚悟ね。魔王城に来いっていうなら、ご期待通り乗り込んでいってやるわ!」


 とはいえ、要塞機能の立て直しも必要だ。スピーディ一行は一旦二手に分かれ活動することとした。


 マヤとエミリーは、帝都やグレートヒルに戻って必要な物資の調達や回収を、フランソワーズとガーネットはアンダーゲート要塞に残り要塞の回復作業に従事する。

もちろん、二人だけで何とかできる話ではなく住人達と協力体制を組む必要がある。


 物資の回収の方は、往復で一か月もあれば時間的には大丈夫だろう。

その頃には要塞機能も復活して、メンバー合流後グレートクレパスを越え魔王の本拠地まで乗り込む予定だ。


「今後は出し惜しみなしよ。伝説の武器からエリクサーまで全部持ってくるわね」


「無理せんでええよ。こっちは要塞の修理しとるで、ちゃっと帝都まで行っといで」


――――


 魔王城に戻ったナイフは、魔王に対して戦況を報告する。


「魔王様、申し訳ございません。勇者共にカール、フレンダ共に敗北しました。罰を受けることはやぶさかではありませんが、何卒もう一度機会をお与えください!」


 敗北理由の一つは行き当たりばったりな戦略に起因する部分が多分にあるのだが、死人に口なしだ。


 魔王にはスピーディ一行の取った戦法を中心に伝え、相手に不覚を取ったのが原因と報告をあげる。


「DDoS に偽計業務妨害フェイクニュースか。なるほど、どうやら相手を甘く見ていたようだな」


 魔王は頭を悩ませ、そして一つの回答に辿り着く。


「そうか!転生者はようだな。かなりのIT知識を持ち合わせた不届き者か…」


 そして、決戦の地として魔王城を選択し、万全の体制を整え勇者達と対峙すべきだとナイフが上申する。


「つまり、近いうちに勇者共がこの地に乗り込んでくるという訳だな。ははっ!人族ごときが調子に乗るなよ!」


 さまざまなものを犠牲にするほど身を粉にして働き、IT知識を磨いてきたのだ。前世で培ったこの分野での経験、知識で他人に負けるとは思っていない。

しかも相手は成人したばかりの若造というではないか。こんな連中に負けるなど自身のプライドが許さない。


 確かに、IT知識のない四天王達ではいくら身体能力が高くても力不足かもしれないが、魔王である自分が勇者と呼ばれている若造に負けるつもりは毛頭ない。


 IT知識だけではなく身体能力、人生経験でも魔王の方が上だという自信がある。今までも魔族内の体制作りのためライバルと戦うことが幾度とあったが、その中にまともに渡り合える相手はいなかった。


 当然、全力で戦う機会など全くなかった。たまには本気を見せてやるのも一興か。


「そうだな。今まで見せる機会のなかった、魔王の本気を見せてやるとしよう!」


 魔族兵による力押しは面白くなく、そもそもワイドアイランドでの敗北で数を減らしている。貴重な魔族兵を消耗するのは、今後の世界征服計画に大きな支障を与えてしまう。


 ここは、力押しではなくAIによるによる自動化を進め、勇者共の侵攻を食い止めてみせよう。


 アンダーゲート要塞でナイフが実現したAIは、従来型のAIであったが、これは設計者の能力以上の動きをすることはできない。だ。


 今回魔王城で用意するものは、機械学習マシンラーニングを使ったものにしよう。


 勇者達とAI戦闘システムで戦いをさせ、行動パターンや戦闘方法などの経験を学習させ、より強力なものに仕上げていく。


 これを実現、維持するためには継続的に膨大な魔力が必要だ。

しかし、魔王城内であれば瘴気を集めることで魔力に変換し、無限に魔力供給をすることができる。これを使えば、地の利を生かして魔王軍有利に事を進められる。


 そう、魔王城内には瘴気をMPへ高効率で変換できるアーティファクトが配置されている。これが機能している限り効率よいMP供給を受けることができ、自律型戦闘システムは永遠に動くことができる。


 これを有効活用することでシステムを継続的に動かしたり、MP回復に利用することができる。人族でも効果はあるが、絶対的なMP容量の大きい魔族有利な状況は揺るがない。


 そして、魔王城下には地下ダンジョンが存在し、複数の階層をなしている。魔王の間は最下層に位置し、そこに到達するまでの各階層主としてバールとナイフを配置して対峙させ戦闘をさせる。


 各階層で勇者達と対戦をさせることで、さらに自律型戦闘システムへ学習機会を与える。階層主はとても強い。そう簡単には魔王のところまでたどり着けまい。


 それでも、もし万一魔王のところまで辿りつくことができたとしよう。


 その時には勇者パーティは大きく体力を消耗していて、とてもまともな戦いにはならないだろう。ここまでする必要が本当にあるのだろうか?


「獅子は兎を狩るにも全力を尽くすというが、これで満足か?」


「さすがでございます。覇道をお進みください。微力ながらご助力致します!」


「ナイフがしくじった時には、我が勇者共を血祭りにしてみせましょう!」


 こうして、勇者軍、魔王軍の最終決戦に向けて、お互いの準備が開始される。

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