第37話 アンダーゲート要塞奪還
スピーディ一行がカールを倒したと気づいたナイフは、現状の分析を開始する。
「カールがやられたようですね。さて、どうしたものか…」
要塞への出入りについてはすべて記録を残していて、おかしなことがあれば報告があがるはずだ。しかし、いくら定時報告を見直してもそのようなものはなかった。
もともと要塞内にいた人間達がいくら集まったところで、カールを倒せるとは思えない。しかしながら、情報発信元が特定できない『フェイクニュース』が発信されているというのは…。つまり、要塞内部へ侵入した者がいることが容易に想像できる。
これが今回の大混乱を引き起こし、カール敗北にも関係しているのではと推測する。
しかし、あらためて要塞内外への出入り記録すべてに目を通すが有用な情報は得られなかった。これでは、ファイアウォールとしての機能をなしていないではないか。
何かが起きたとすれば、ピンポンダッシュを繰り返され処理が回りきらなくなったところで、一時的に許可した出入りについて記録を止めたタイミングが疑わしい。
しかし、このタイミングで許可した出入りの記録を残さない運用に一時変更してしまったということは、今となっては証跡を見つけることは不可能だ。大いに反省する必要があるだろう。
「勇者共に侵入を許したようですね。しかし、詳細が後から確認できないとは…
嘆かわしいことです」
ナイフは、カール、フレンダを失った状況で詳細不明の勇者一行と戦うか、今から作戦変更をするかの岐路に立たされる。
「カール、フレンダを討伐した連中とここで戦うべきか、それとも…」
ナイフは、魔王の懐刀と呼ばれ重用されるほど聡明で優秀な男だ。
しかし、戦闘能力やMP視点では他の四天王より優れているとは言い難い。
その代わり調略や謀略に長けていて、自分に都合のよいものを味方に付け、相反する者がいればうまく排除していく。
つまり、強力な政治力を発揮して本来の実力以上の評価を得たり、ライバルを蹴落とすことで序列を駆け上がってきた。特に、魔王とナイフは誰もが蜜月の関係と噂するほどになっている。
現世の用語で言い替えると、過度な
魔王軍内部の競争であれば、上記の方法で目に見える成果をあげることができた。しかし、政治力の通用しない勇者一行との戦いとなると、これは通用しないだろう。
それであればいっそのこと、もはやアンダーゲート要塞内での戦闘にこだわる必要はないのではと考えを改める。
「まさか、人族に攻められる側になるとは思いませんでした。
人族の領土へ攻勢にでるのであればアンダーゲート要塞は重要な拠点ですが、
人族の勇者の攻撃から守りにはいるのであればこの際放棄も止む無しでしょう!」
既に四天王のうち二人と、出征した魔族兵の多くを失ってしまった。
これ以上の戦線拡大は当面あり得ない。それどころか討伐を進められている状況で、守りに入るのであればグレートクレパスを越え魔族の領土に戻る方が確実とナイフは判断する。
グレートクレパスの先にある魔族の生息域では、大気に強い瘴気が漂っている。
この瘴気の存在によって、魔族はMPを効率よく回復することができる。
瘴気は人族のMP回復にも関係があるが、そもそも魔族よりMP容量が少ない。
魔族の生息域まで人族を引き込むことによって、魔族は相対的に有利に戦闘を進めることができる。
また、強すぎる瘴気に不慣れな人族は、場合によっては体調を崩すかもしれない。
魔族は人族より優れているというプライドを捨て置いてでも、この際一旦撤退をして万全を整えるべきだとナイフは考える。
苦渋の選択ながらナイフは、要塞内に残っている魔族を作戦室に集める。
そして、下記の宣言を行う。
「アンダーゲートの放棄を宣言します。物資の積み込みを行い全軍退却の準備を!」
しばらくして、アンダーゲートの要塞化が解除され、魔族の撤退が開始された。
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