第36話 嘘は嘘であると見抜ける人でないと…

 要塞内にカールが離反したと嘘情報フェイクニュースを流したことで、種族に関係なく周りは騒然となった。そして、このメッセージを契機に要塞内に大混乱を引き起こす。


 日本であれば偽計業務妨害罪に当たるのだろうが、ここは異世界だ。もっとも今までもさんざんやらかしているので、自重しろといっても今さらではあるが…。


 メッセージを受け取ったメンバー達から、いろいろな声が上がり始める。


「ふざけんな。【緊急】とか気軽に使うんじゃねーよ。狼少年状態になるだろ!」


「おい待てよ。でもカールが寝返ったってのが事実なら、マジ緊急でヤバくない?」


「さすがにデマですよね?。そのうち本人が現れて声明を出すと思いますよ。」


 いきなりわけのわからない連絡をするなという意見もあるが、正確な情報がわからず疑心暗鬼になっているものが多い。


 カールが普段から清廉潔白な人物ならば、こんなフェイクニュースに騙されることはなかったのかもしれないが、無責任な行動をとっていたのが仇になったようだ。


 そして、このニュースは当然プッシュ通知される。


――――


「何だこんな時に!。ハァ?俺が寝返ったってどういうことだ?おかしいだろ!」


 スピーディ一行から逃亡して対応をナイフに押し付け、しばらく身を隠すつもりだったが、この状況で放置はさすがにまずいと気づく。カールは思案を巡らす。


「そうだな…選択肢は大きく下記の三つだろうな」


 1. ナイフのところまで状況報告のため訪れ、嘘情報フェイクニュースの訂正をする

 2. このまましばらく隠れて様子をうかがう

 3. 引き返して、再度勇者パーティへ戦闘を挑む


 そして、どの作戦をとるのが最善か再び思案を巡らす。


「1. が順当だが、『ルーの槍』が手元に無いのは不自然だな。真実を伝えたとして信じてもらえる保証はなく俺の敗北は確定、かつ序列の降格は避けられんな…」


 カールはまだ今の段階で負けを認めたくないようだ。序列を争っているもの同士でもあり、できれば先延ばしできるものは先延ばししたいと考えている。


「2. もあり得ないな。連絡しないのは裏切ったのを認めたようなもので、魔族と勇者の両方から命を狙われることになってしまう」


 四天王と呼ばれるほどの魔族となると、体内に蓄積する魔力は膨大だ。魔族同士であれば、その存在を検知することができる。正確にどこにいるかまでは掴めないとしても、生死の状況や魔力の消耗度くらいはわかってしまう。

生きているのに報告せず潜んでいるとなると、裏切ったと思われてもおかしくない。


「3. もないな。まともに戦ったらまずいと思って逃げ出したのに、対策なしで戻るのは自殺行為だ」


 カールは頭を抱え悩む。正直、愚策しかでてこない。


「あー。どれも駄目じゃねーか。これチェックメイトじゃねーのか!」


 もし、普段からメッセージを例えば PGP で電子署名をして送る運用にしていれば、り、メッセージ内容の改ざんの有無がわかったかもしれない。

しかしながら、そんな運用はしていなかった。今さら後悔しても後の祭りだ。


「俺様の名誉維持を前提とすると、危険を承知で 3. 一択ではないか…

もはや何をいっても仕方がない。四天王第三位の俺様の実力を見せてくれるわ!」


――――


 大いに不本意ながら、不敗神話のカールはスピーディ一行の前に再出現した。

スピーディ一行を蹴散らし、ルーの槍を取り戻す算段のようだ。


「よくも、嘘情報フェイクニュースなどというふざけた手を使ってくれたな。お望み通り、俺様の全力を見せてやろうではないか。俺様を引きずり出したことを後悔するがいい!」


 カールは身体をグルグルと時計回りに回し、魔力圧縮を開始する。そして、強力な攻撃魔法と思われる術式を組み、スピーディ一行を一網打尽にすべく準備に入った。


 相手の攻撃ペースに合わせてやる必要はない。攻撃魔法の術式が完成する前に決着をつけなければ、スピーディ一行だけでなく周囲へ大被害を与えてしまうだろう。


 取り急ぎ、エミリーとマヤの 2人でカールを直接攻撃して術式の完成を妨害する。

そして、マヤはある作戦を実行に移すよう、スピーディ一行に指示を出す。


「エミリーと私でしばらく耐えしのぐから、フランソワーズとガーネットは後方から支援をお願い。あと、フランソワーズはアレの準備もよろしく!」


 トレイン行為をして迷惑をかけてきた奴には、列車トレイン繋がりのやり方で動きを止めてしまう作戦を考えた。現世で言えば、実装上の不具合を突いてサービス停止Denial of Serviceに追い込んでやろうという作戦だ。


 実は、現時点でルーの槍を持っているのはエミリーではなくフランソワーズだ。

前衛メンバーにカールの意識を集めておいて、列車で言うところの『緊急停止スイッチ』に相当する急所を必殺の槍で突くことで、動きを止めてしまおうという作戦だ。


 その後マヤの作戦は順調に推移して、後衛メンバーからの直接攻撃はないとカールの意識から外れている。今がチャンスだ!


「おみゃあみたいなおおちゃくい奴がおるから、私の計画プロジェクトがわやだでかんわ。いっぺん死んでまえ!」


 この世界ではステータス上職業が決まっている訳ではない。そのためLVさえ充分であれば、どんな武器でも装備可能だ。装備を充分に使いこなせるかは別の話だが、賢者という職業はあくまで自称だ。ビジュアル的には不適切でも、槍を装備して攻撃のため投げることも問題なくできる。そして必殺の槍がカールの急所に到達する!


「くそっ。弱点を見抜かれ動きを封じられるとは。不敗神話もここまでか…無念…」


――――

 教訓: 世の中、嘘情報があふれている。例えば PGP など電子署名を使うことで

    発信者が正当であるかとか、内容に改ざんがないか検知することができる

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