第23話 魔王四天王の軋轢

 今回は、視点を変え魔王軍の内情について少し紹介をしよう。


 魔王は異世界へ転生し、この異世界最強と言わしめる身体能力を持って転生したが、たとえその能力を持ってしても一人だけで世界統一ができるかと言えば無理だ。


 仮に、この異世界すべての生命体を滅ぼすという選択肢もなくはないが、必要な時間が尋常ではないし、そもそもそんなことをする意義が感じられない。


 魔族は、人族と比較して桁違いの身体能力を持っているが、繁殖力は非常に弱い。

魔族の生活圏を維持することだけを考えるのであれば、現状のグレートクレパスより西側の土地ですら持て余している状況だ。

ここに、管理者のいない土地を加えても管理することができず意義が感じられない。


 世界統一するのであれば、圧倒的な力で人族を屈服させ、魔族の支配下に置くのが現実的だろう。


 もちろん、魔族の中にも戦いを望まず、人族との共存を願う穏健派が存在する。

共存であっても、実質の支配者が魔王となれば、世界統一と言えなくもないだろう。

武力以外の方法で世界の支配者となる選択肢もあると考えられる。


 しかし、魔王は部下に対して共存よりの意思を見せていた。


 その後、巧みな政治工作もあり、穏健派は主戦派との派閥争いに敗れ排除された。

現在の魔王軍は、主戦派を支持するメンバーしか残っていない状況だ。


 そして、魔王は転生後軍隊方式を導入し序列を決め部下に対して意識付けする。

特に序列一位から四位を『』と呼ぶこととした。


 序列順に以下のように任命し、他の魔族からは敬称を付けてこう呼ばれている。


 ― 狂気の『バール』

 ― 魔王の懐刀『ナイフ』

 ― 不敗神話の『カール』

 ― ファイヤーファイター火消し『フレンダ』


 魔王が転生してからこれまで、魔物が凶暴化することはあったが直接魔族から人族への干渉はなかった。

これは、こういった体制作りを進め、魔王に対する支持基盤固めをしていたからだ。


 支持基盤固めも終わりが見えた。そろそろ魔王軍で何らかの動きがあるだろう。


――――


 そして、マヤ達のパーティ『スピーディー』が誕生した時と同時期の話になる。


 狂気のバールが現状の守勢から転換し、人族への侵攻計画を雄弁に語りだす。


「人族の生息地に攻勢をかけるためには、必ずアンダーゲートの要塞を経由することが必要だ。ここを奪取し、魔族の中継拠点とするのが最善の策なのだ!」


 人族がグレートクレパスを超えて魔族の生息域に侵入するのはとても困難だ。しかし、桁違いな身体能力と飛行能力を持つであれば不可能ではない。人族の生息域に侵攻して勢力を拡大するのであれば、いずれ通る道である。


 とはいえ、現時点で戦闘経験のある上級魔族はわずかしかいない。今後人族と戦争を起こすのであれば、もう少し計画的に訓練を含めた準備を進めるべきだろう。


「(バールめ、今以上の栄達を求めますか。あぁいまいましい!

カールは魔王の決定には『イエス』しか言えないし、フレンダは八方美人だからな。どちらか一方のみに加勢はしないでしょう。うーむ、これは劣勢ですね)」


 ナイフは、バールの魔王への上申に苦言を呈する。


「人族の領域への侵攻は必要でしょうが、に本当に必要でしょうか?戦力を蓄え、圧倒的な火力を持って対処すべきではございませんか?」


 魔族の寿命は人族と比較してとても長い。

『世界統一』を神様と約束したとは言え、別に期限が切られている訳ではない。

十分な戦力を持って対処するのが王道だ。ナイフの言うことも一理ある。


「(ちっ、魔王の腰巾着め。いまいましい奴だ。今回のアンダーゲート要塞での戦果を持って、立場の違いをわからせてくれるわ!)」


 こんな調子で、お互いの序列を気にして足の引っ張り合いをしている。

四天王の間で連携した動きができれば鬼に金棒なのだろうが、残念ながらその様子は見られない。逆に言えば、このような状況だからこそ人族側への侵攻は先延ばしになっていたのだが、ついに来る時が来てしまったようだ。


「魔王様の決定に従いましょう。何なりとお申し付けください」


「フォローはまかせてください!。どちらになってもうまくさばいてみせますわ!」


 アンダーゲート要塞への侵攻の是非について、魔王に決定が委ねられる。


「(バールがやりたいと言っているのだ。やらせて実力を見てみるのも一策か)」


「よし、作戦はバールに委ねる。カールとフレンダは侵攻作戦のフォローに入れ。

ナイフは防衛のため私と一緒に魔王城に残れ。期待しておるぞ!」


 この後ほどなくして、魔族によるアンダーゲート要塞への侵攻が開始される。

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