第19話 勇者パーティの瓦解

 現在のクズ勇者パーティへの未練が一切なくなったマヤだが、これからが大変だ。

ダンから見ればマヤは金の卵だ。理由もなくマヤの脱退を了承する雰囲気はない。


 現在のところダンからのアプローチはそっけない態度でかわし続けているが、そろそろダンがしびれを切らせ始めている。早期になるべく円満にパーティを脱退できるよう、何らかの対策を考える必要がありそうだ。


「脱退するとはいっても月並みな方法しか思いつかないわね。どうしようかな…」


 時間がかかってもよいのであれば、ダンの食事を作る時に塩分を多くするなど地道に効いてくる方法は思いつく。しかし即効性のある方法を選びたい。ダンになすすべもなく手を出されるのは何としても避けたい。


「メシマズ作戦は時間がかかりそうね。他に何かいい方法は…?」


 なりふり構わず、おならで不意打ちして千年の恋も冷める雰囲気に持っていく方法も考えてみた。しかし、二人きりのプライベートなタイミングでダンに近づくこと自体がいろいろとアウトな気がする。この方法も避けるべきだろう。


 そもそも、マヤは容姿の面でダンの御眼鏡にかなっているのだろうか。もしかするとおなら作戦は思ったほどの効果がないかもしれない。


「うーん。じゃあ、人の多いところでダンの服を脱がせて辱めるとか?」


 勇者ダンの評判を落として、パーティ内外で不和を生み出す方法はどうだろう。

マヤのチート技を見られる危険性があるが、街中で『アイテム強奪技レースコンディション』を使って勇者の装備を奪う露出狂作戦だ。


 しかし、残念ながら装備中のアイテムは受け渡し操作が禁止されている。『アイテム強奪技レースコンディション』は未装備のアイテムしか対象にできない。そもそもの話、温泉回の時にマヤはハダカになれなかった。つまりこの作戦は実行不可能である。


「仕方ないわね。まず身代わりを立てて、ことにしましょうか」


 次善の策となってしまうが、次々とマヤは作戦を練っていく。

身代わりを立てることで、とりあえず時間稼ぎをしよう。その間に何かよいアイディアが出てくるかもしれない。


 しかし、身代わりを立てるといったものの適切な人物を見つけるのは大変だ。候補を探さないと。


「トップオーバーの街からマユを連れてくるのはどうかな?でも勇者パーティに適した人材じゃないとやっぱりダメよね…」


 さすがに、身近な人物を犠牲にするのは忍びない。

マヤは以前入手した重要NPCリストからの絞り込みと、帝都で勇者パーティ加入希望者とのマッチングを開始する。


「勇者パーティに憧れ、美しくて天使のような人物か…そんな人がいるならダンのためじゃなくて私のパーティに勧誘したいわよ!」


 難しい条件だがマヤの将来に関わる話だ。幸い、勇者パーティの知名度は十分でマヤはお金に困っていない。ここは遠慮なしで行く決意をする。絶対に失敗は許されないのだ。


――――


 マヤが帝都に来たばかりの頃パーティメンバーを探した時のように、結構苦労すると考えていた。しかし、勧誘を始めてみると超有名な勇者パーティに興味を持つ人は予想以上に多いようだ。今回、能力条件を二の次としたのも有利に働いたのであろう。奇跡的に、大して苦労せず条件を満たす人物が見つかった。マヤはさっそく勧誘を始める。


 金髪ロングのモデル体型で胸がとても大きく、ビジュアル的にはダンの嗜好にドンピシャである。容姿も優れており女のマヤであってもドキドキしてしまうほどの魅力と性格を持ち、そして何より重要なのがことである。


「ヒラリーと申します。こんな機会をいただけて本当に感激です!」


 ヒラリーは前評判だけでなく、まさに理想の人物のようだ。

正直ダンの毒牙にかかる将来を考えるととても心苦しいが、勇者を慕っておりおそらくこれ以上の人物は現れないだろう。


 マヤはさっそく、勇者ダンのパーティへの加入を打診する。


「勇者ダンと面会の機会を作るから、是非私たちと一緒にパーティを組みませんか!

ダンの御眼鏡にかなうように、服やアクセサリーは私が仕立ててプレゼントしてあげる。遠慮しなくていいから私に任せてちょーだい!」


 ヒラリーもまんざらでもない様子だ。憧れの勇者パーティに入ることができ、装備類も無償提供してくれるというのであれば願ったり叶ったりの状況だろう。


「本当ですか。とても嬉しいわ。是非お願いします!」


 さっそくマヤは、ダンの嗜好に合う装飾品、服装を見立てるために商店に向かう。そして、お金を惜しむことなくつぎ込みヒラリーの身嗜みを整えていく。

クズ勇者パーティから脱退するためならば、この程度の出費は痛くも痒くもない。


――――


 その後充分にヒラリーに事前仕込みを行い、ダンとヒラリーで面会を行うこととなった。


 ダンの嗜好に合わせ完璧に仕立てられたヒラリーは、マヤの計画通り激しくダンに気に入られたようだ。そして、無事勇者パーティのメンバーに加わることになった。


「ヒラリー。僕のパーティへようこそ。歓迎しよう。パーティ内のルールは今後伝えていくからよろしく頼む!」


「はい。誠心誠意ご奉仕させていただきます。ご主人様!」


 よっしゃ、ここまでは計画通りだ。かなり唐突だが、マヤの脱退についての打診をしてみよう。ヒラリーの加入を聞きつけたマヤは迷わず話を切り出す。


「ヒラリーの加入で、パーティメンバーの空きも少なくなりました。私ならいつ解放していただいても大丈夫です(つべこべ言わずさっさと解放しろっ)」


「まぁ待ちたまえ。そこまで急ぐ必要はないんじゃないか。しばらくしたらマヤもたっぷり可愛がってあげるから」


 『それなら私は用済みですよね?』と言わんばかりにマヤの脱退について打診したのだが、保留されてしまった。ぐぬぬ。とはいえ、ダンの興味がヒラリーに移ったのは間違いなさそうだ。これで当面の時間稼ぎにはなるだろう。


 パーティメンバー数は有限だ。この調子でメンバーを増やしていけばさほど遠くない時期にマヤは追い出される計算だ。まず一段階進んだと考えることにしよう。


――――











――――


 一つ触れておくと、マヤは聞かれなかったのでダンに伝えなかったことがある。

ヒラリーはダンの御眼鏡にかなう最強人物なのは先の通りだが、あえて性別情報を伝えていない。ヒラリーはいわゆる『』であった。


 これをダンに伝えなかった結果、マヤは勇者パーティに対して『』を仕掛けることとなる。ポイズニングとは名前の通り『毒入れ』という意味で、かなり危険な攻撃方法である。


 例としてインターネットの世界では、『DNSキャッシュポイズニング』という攻撃方法が存在する。


 ごく簡単に説明すると、『キャッシュDNSサーバ』はホスト名から IPアドレスへの名前解決を高速に実現するためにキャッシュ情報を持っている。


 ここのキャッシュ情報を汚染して偽の情報を注入することで、例えば Web ブラウザからサイト名で参照を行った時に本来のサイトではなくフィッシングサイトへ誘導することができてしまう。他にも、ARP テーブルを汚染するなどポイズニングを狙う先はいろいろと存在して、ポイズニングが成功するとかなりの被害が予想される。


 それはさておき、ハーレムパーティに『』を仕掛けるとはどういうことか説明しよう。


 ハーレムメンバーの中に、ダン以外のが加わることなど一切想定していない状況としよう。そこに、女性だと思っていたら実はがいたらどういうことになるか考えて欲しい。


 ヒラリー加入直後は様子見のため控えめな行動に徹していたダンであったが、これはヤれるに違いないとの判断が下る。そして、いざ事に及ぼうとした際にあってはいけないが発覚したらどうなるだろうか。


 その結果、ヒラリーは『』として効果を発揮して大いなる混乱を引き起こすこととなる。


 そして、色々なショックからダンは『サービス不能Denial of Service』となってしまった!


 えっ、ナニがサービス不能だって?わかって下さい…お察しいただければと。

――――

教訓: ポイズニング攻撃を避けるためには、キャッシュ汚染に対する対策が必要

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