第15話 難攻不落のダンジョン

 帝都近くにある不法占拠された砦の無血開城に成功し、成果を評価されたマヤは知名度『Dランク』の冒険者へ昇格した。


 これで、マヤ単独でも討伐クエストを受けることが可能だ。とはいえ、パーティ戦の経験が全く持って足りていない。そして、高難度のクエストをソロでこなすのはかなり厳しい状況だと思うと、帝都にいる間はアレン達と行動を共にするのがよいだろう。少なくとも Cランクまではこのままの体制でレベリングするのがよさそうだ。


 アレン達一行は帝都の冒険者ギルドに赴き、目新しいクエストがないか見て回ることにする。


「次は戦闘経験が積めるクエストを受けてみようぜ。マヤが加入したことだし、今までより楽に進められると思うんだが?」


「そーやね…ダンジョン攻略なんてどうでっしゃろ。攻略途中で引き返してもペナルティはあらへんし、実力を見るにはええと思うわ」


「よっしゃ。任せてちょうだい。こう見えて結構強いってのを見せてあげるわ!」


 原則はパーティリーダーのアレンが決めた方針に従うことになるが、冒険者といえばやっぱりダンジョンを攻略したい。という訳で今回一行は帝都からほど近くに存在する『サウスクラスター』のダンジョンを目指すことにする。


「ダンジョン攻略よね。とてもわくわくするわね。ちなみにアレン、今回挑戦するのはどんなダンジョンなのかご存知かしら?」


 アレン達は、過去にこのダンジョン攻略に挑戦したことがあるのだろう。

マヤの質問に答える。


「未だ誰も攻略に成功していなくて、と呼ばれているな」


「そうなんだ。そんなに魔物が強いのかしら?」


「いや、魔物の討伐だけなら俺たちが 3人の時でも何とかなる程度だ。LV上げにちょうどよいくらいだな」


「高ランク冒険者も挑戦しているのよね?。何故誰も攻略できていないのかしら?」


 ここで、あまり会話のなかったシャルロッテが割り込む。過去にだいぶ苦しめられたことがあるのだろう。


「レベル上げにはちょうどよいけど、のダンジョンね。

なにしろ、時間経過と共にに迷宮内の地形が変わってまともにマッピングすらできないから」


 なんと、そんなダンジョンがあるんだ。マヤはさらに深く訊ねてみる。


「でも、マッピングできなかったとしてもずっと下に進んで行けばそのうちボスに到達するんじゃないの?」


「いやー、途中にいくつも罠があるのよ。ひっかかるとダンジョン外へ強制的に弾き出されてしまって…あー悩ましい」


 どうやら、いくら強いパーティでもダンジョンマスターまで辿り着くことができていないらしい。だから『』なのだろう。


「うわー。面倒なダンジョンね。まぁパーティ戦闘に慣れるのと、LV上げも悪くはないけど…」


 とりあえず、当面はパーティ戦闘の経験を積むのと、ダンジョン攻略のための知識を学ぶことにしよう。


――――


 アレン達一行は、迷宮内の魔物をなぎ倒しどんどん進んでいく。

ちなみに、マヤは解錠呪文を使い罠や宝箱の解錠を中心に担当している。


 戦闘に使える魔法は『カミカゼ』があるが、エリクサーを2個しか持ってきていないので最終手段の保険として取っておこう。マヤは戦闘時には主に剣を使って前衛を担当している。他のメンバーよりLVが高いため、戦闘技術はまだ低いものの遅れをとるようなことはなく十分戦力になっているようだ。


 アタッカー3人と回復役一人という攻撃重視の布陣だが、論理的な考えのできるマヤが加入したことでなかなかよいコンビネーションが組めているようだ。


「確かに、ときどき地形が変わってマッピングは現実的じゃないわね。うかつに変なところに近づくと、罠にひっかかってダンジョン外に飛ばされるし!」


 現在まで誰もこのダンジョンを攻略完了できていなく、正当なやり方で攻略するのは恐ろしく大変そうだ。パーティ戦闘にも少しずつ慣れてきたことだし、ダンジョン攻略についても少し考えてみよう。


――――


 マヤは、現在までの攻略情報を元に一旦落ち着いて考察を開始する。そして、地形変化についてとある推測を立てる。


 そう、な地形変化とのことだが、『』を実現することは非常に難しいはずだ。


 ということは、おそらく内部処理では『』を使っているのだろうと推測する。もしそうであれば、何とか規則性や偏りを見つけることができないだろうか?


 規則性や偏りを探るべく、『』に着目しながらダンジョン攻略を継続する。


――――


 マヤは、人間とは到底思えない観察力を発揮して、迷宮内の地形変化に規則性がないかを探る。


「ランダムな地形変化に見えるけど、周期的に同じ地形になることがあるようね」


 それならばと、時間情報も記録しておき時間の変化と合わせて規則性がないか探りを続ける。そして、マヤは気づいてしまったのだ。


「わかったわ!『時+分』をにしているみたいね。ダサすぎる!」


 つまるところ、シードを合わせることができればということだ。シードを特定できてしまった擬似乱数など、マヤの敵ではない。


 そこまでわかったので、アレン達一行は『時+分』の情報を付与しながらマッピングを開始する。そして、ダンジョン攻略に適切な選択肢を絞り込んでいく。


 ちなみに、シードを固定できたとしても、選択肢を潰していく作業は大変だ。

それでも過去と同じ状況が再現できるのならば、一度踏んだ罠は回避できる。これを繰り返しいけば、最終的にボスまでたどり着くことができるはずだ。


 そして、補給や休養などを含め 3週間ほどでついにダンジョンマスターの部屋まで辿り着くことに成功する。お約束通り、ボス敵が行く手を遮る。

アレン達一行は、ついにボス敵と対峙することになった。


――――


 と呼ばれるだけあって、現在まで誰もボス敵ま辿り着くことができなかった。言い方を変えれば、迷宮の複雑さに守られていて現在までボス敵は誰からも戦闘を挑まれることがなかった。


 本来であれば有事に備えて戦闘訓練などをしなければいけないのに、ボス敵は訓練を怠っていたようだ。そのためすっかり体がなまってしまい、戦闘経験が抜け落ちてしまっている。つまるところ、実際の戦闘からすっかり遠ざかっていて戦闘に対する準備が全くできていないようだ。


 アレン達は退路を残しつつボス的に挑んだが、予想外の展開で少し戸惑う。


「あれっ。こいつボス敵なのに何か弱いぞ。満足に回避もできていないぞ!」


「ほんまや。これなら俺らでも勝てるんちゃうか?」


「これなら私達でも対抗できそうですね。回復支援をするから波状攻撃をお願い!」


「ノースランドの森での連続攻撃を思い出すわ。私も加勢するわよ!」


 アレン達一行は、迷宮の攻略とは正反対にボス敵をあっさり屠ることに成功する。そして、ほどなくしてサウスクラスターのダンジョン攻略が完了した。


「キター。前人未到のダンジョン攻略に成功よ。知名度いっぱい上がるかしら!」

――――

教訓: 擬似乱数のシードに、推測可能なものや規則的なものをつっこまないこと

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