第14話 トロイの木馬
自宅に設置する金庫の購入が無事決まり、工事完了までの間少し時間ができた。
工事完了までの一週間を使い、帝都内のいろいろなところに出向き情報収集をしながら周辺の様子を調べようと思う。これからの冒険に役立ちそうなアイテム等を探し、必要なものがあれば調達しておこうという訳だ。
そして、帝都内の商店をくまなく探索したことで、念願の『魔法の袋』を手に入れることに成功した。これは『アイテムボックス』内のアイテム所持数を増やすことができるアイテムだ。
これを装備することで、一人辺り 20個までの所持数の上限を 10個増やすことができる。実際には『魔法の袋』自体がアイテムボックス内スペースを 1つ消費するので、アイテム所持数が 9個増えると考えるといいだろう。
ちなみに、値段は高く 1,000,000G もするためおいそれと買えるものではない。
さらに言うと常時店頭在庫があるような商品ではなく 1つしか入手できなかった。
しかし、これで今より冒険中のアイテム回収などが捗るだろう。
そうこうしているうちに、自宅への金庫設置工事が完了したようだ。早速、アイテムボックス内で当面使うあてのない希少アイテムとエリクサーの大半をを金庫内に収納する。エリクサーは保険のため普段は 2個ほど持ち歩いておけば充分だろう。
これでようやく、検問に使われている『
「これでパーティが組めるわね。冒険者ギルドへ行って冒険仲間を探すわよ!」
――――
マヤは、冒険者ギルドに出向き以前入手した『重要NPCリスト』に名前のある冒険者、有名パーティがいないか探し始める。しかし、そんな有名パーティが冒険者ギルドで待ち構えているようなことはなかった。さらに言うとメンバーの欠員がでているなんて都合のいい話はまずないだろう。
そう、『勇者』とか『賢者』と呼ばれるパーティが幅広く人員の募集をするようなことはないし、そのくらい有名になると『指名依頼』だけこなしていても十分生計が成り立つのだ。
状況を把握して、マヤの当面の目標は『まずは知名度を上げ、勇者パーティの末席としてお声がかかること』と設定する。
いくら帝都とはいえ、ギルドで見つかるパーティメンバーはたかが知れている。
とりあえず『一時パーティ』を組んで、自分の知名度アップに励もうと思う。
原則としては、だいたい同LV、同程度の知名度のメンバーでパーティを組むのが普通だ。受けられるクエストの種類からいっても、知名度プラスマイナス1くらいの差でないとお互いやりづらいだろう。しかし、このルールは絶対という訳ではない。
例えば、有名パーティに見習いで入ってパワーレベリングをする場合などがある。
要は、メンバーに適切に報酬が渡れば、レベル差があっても許容される場合が多い。
マヤとしては知名度を早くあげることが最優先であって、正直小金に興味はない。
報酬の分け前はわずかだが、有名パーティに所属できるならこちらを選ぶだろう。
「おっ、あのパーティ、人員を募集しているように見えるわね。話かけてみよう!」
屈強な感じの前衛 2名と世話焼きの回復役 1名といったところだろうか。装備から推測するとLVはマヤを若干下回る程度で、知名度は C、D ランク混成のようだ。
特に、前衛 2人は戦闘では強そうだがあまり知恵が回りそうな雰囲気ではない。
案外、こういったパーティに参謀として加わり協力をする方が都合よさそうだ。
もっとも、知名度 Eランクのマヤが他人をどうこう言える立場ではないのだが、
メンバーのバランスとしてはよさそうに感じる。
最初は荷物持ちでも構わないが、頭脳的な活躍を見せて信頼を勝ち取っていこう。そして、活躍にあわせて自身の知名度向上に期待したい。
マヤは、このパーティのリーダーとおぼしき男に話掛ける。
「あなたたち、仲間を探しているのよね。帝都に来たばかりだけど、頭脳プレイにはかなり自信があるんだけど…もしよかったらあなた達のパーティの一員に加えていただけないかしら?」
「一緒に冒険をする仲間を探しているのか?それなら、帝都にいる間俺たちと組まないか?」
「わかったわ。あなた達のことをもう少し聞かせていただけないかしら?」
冒険者達は自己紹介を始める。
「俺の名はアレン。剣士でこのパーティのリーダーをしている!」
「ベンジャミンだ。Dランクの戦士だ。よろしくたのんます!」
「私の名前はシャルロッテよ。回復役なら任せて!」
今のところマヤの職業は『魔剣士』といったところだが、一切パーティ戦の知識がない状況だ。少しずつ経験を積んで、適切な戦闘スタイルを見つけていくつもりだ。
――――
パーティ編成後の最初のクエストということで、本気の魔物討伐は避けてくれた。
おそらく、マヤの実力確認を兼ねて予行演習をさせてくれるのだろう。
今回のクエスト内容は、帝都近くの不法占拠された砦の制圧依頼を選んだ。
百人体制で騎士団を投入すれば難なく制圧できるだろうが、住み着いた者による砦の武装化が進んでいて武力制圧は得策ではない。正攻法で制圧を試みた場合、双方の被害は計り知れないだろう。
また、占拠しているのは悪党ばかりという訳ではなく、抵抗しない人まで無闇に人を殺めるのは避けたい状況のようだ。そのため、なるべく穏便な方法で制圧を期待されてるようだ。
――――
アレン達冒険者一行は、砦の周囲を視察して状況把握を開始する。
「砦の正面入口では複数の屈強な傭兵っぽい身なりの人間が鎮座しているようだな」
不審な動きがあれば、武装化された砦ということもありいつ攻撃されてもおかしくない状況で、冒険者風情が正面突破をするのは得策ではないだろう。
「厳重な警備ね。でも、よく見ると商人などがここを通っている気配がないわね?」
そう、現世で言えば虹彩認証や指紋認証、共連れ対策など厳重なセキュリティゲートをつけ、対策は万全に見えるのだが、何故か掃除のおばちゃんがそこを通った形跡がないのと同じだ。おそらく、御用商人達は『
「ちょっと危険だけど、試してみる価値はあるわね。まずは私に任せなさい!」
マヤは早速、ある作戦を思いつき実行に移す。
――――
砦の周辺を観察すると、少し離れひっそりとした区画にそれらしき『
人の出入りはあまりないが、隠れてずっと様子を見ているとときどき商人っぽい人物が出入りしている。ここでは、事前に発行された
観察によりだいたい様子がわかったので、帝都に戻り準備に入る。
――――
マヤは街娘っぽい服装に着替え、帝都のコメ屋を訪れ一俵の米俵を購入する。
これを担いで持っていき、商人の振りをして裏口から侵入しようという魂胆だ。
おいおい、米俵をアイテムボックスに何故収納しないの?とか、中世ヨーロッパ風のファンタジー設定なのにコメが一般的に食べられているのかだって?
こまけぇこたぁいいんだよ!!
とにかく、60kg の米俵は大きすぎてアイテムボックスに入らなく、両手で抱える必要がある訳だ。
それでも、実はLV 30 超のマヤなら普通に持ち上げることができる。
まずは、砦の近くまで米俵を普通に運ぶ。そして、マヤは米俵を両手で抱え辛そうな演技をする。
そして、砦の『
「こんにちわ。コメ屋の方から来ました。ジョセフさんにお届け物です!。おっとっと…」
コメ屋から来たとは言っていない。お約束のセリフで話しかける。
そして、
マヤは、それとなく
先ほどの視察で、通行許可証の確認は人手で目視確認していることを確認した。
人間による目視確認をしているということは、同情して判断を誤る可能性が高いと考えたのだ。
予想通り、60kg の米俵を担いでヨタヨタしている小娘に同情してくれたようだ。
さらにそれだけではなく、警備員は同情からか親切心を出してしまう。
「…ったく。ジョセフ爺の奴申請出してねーぞ。まぁいいや。この先の2階の右奥の部屋だ。頑張れよ!」
おっと、あぶないあぶない。御用商人など訪問者がある場合、基本利用者からの事前申請が必要なようだ。幸い、ジョセフ爺は運用ルールの遵守がいい加減な人物で通り抜けることができてしまった。もし、訪問先に選んだ人物が几帳面な人だったら不審に思われ捕まっていたかもしれない。
――――
米俵を使った同情作戦で、マヤ砦の中に無事侵入することができた。頑強な砦とは言え一度侵入できてしまうと、実は内側からの攻撃には弱かったりする場合がある。
今回は砦の制圧が目的であって、できれば人命への被害は極力避けるべきだろう。深夜になり皆が寝静まるまで潜伏して、その後無人になった裏口を開放して味方を引き入れる予定だ。
マヤは、心の中でこう叫ぶ。
「(解錠スキルLV最大の私に、開けられない物理鍵など無いっ!)」
――――
マヤは計画通り、アレン達パーティメンバーを
「パーティメンバーだし成果の独り占めはよくないよね。あとよろしくね!」
「ここからは俺たちの出番だな。力仕事は任せておけ!」
という訳で、その後はアレン達一行の活躍により『砦の主の生け捕り作戦』を無事成功させた。ほとんど人的被害を出すことなく砦の主を生け捕りにしたことにより、砦の不法占拠解消に向けて今後の交渉がしやすくなるだろう。
そして、ほどなくして砦の無血開城が行われ、アレン達一行は帝都で名を轟かせることに成功した。
――――
教訓: セキュリティポリシーは独自判断で例外を認めず、遵守しましょう
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