第16話 ファイアードレイク討伐
ランダムに迷宮内の地形が変わる難攻不落のダンジョン攻略に成功した成果が評価され、マヤは知名度をあげ『Cランク』冒険者へ昇格した。
通常、一つのクエスト攻略で一ランクあがるなんていう話は聞いたことがない。
しかし、今回は帝都に近く数多の挑戦者がいるにも関わらず攻略できていなかったダンジョンの攻略だ。
そのため、あっという間に帝都内へ情報が拡散して知名度の向上に寄与したようだ。もちろん、マヤだけでなくパーティメンバーについても同様だ。アレンが Bランクへ、他のメンバーも Cランクへ昇格した。
ちなみに、知名度ランクは F~S の 7段階だが人数比は正規分布ではない。
一段階変わるとおよそ一桁人数比が変わるピラミッド型の分布になっている。
知名度のパラメータだが、この世界の住人であれば冒険者に限らず誰でも持っているものだ。そして、世の中に貢献するなど評価されることでランクが向上する。
おおよそのイメージだが、仮に Fランクが 1000万人いるとすると、Eランクが 100万人、Dランクが 10万人、Cランクまでくると 1万人といった印象だ。
そう考えると、Cランクまで辿りつけば一流冒険者の末端で、他の冒険者から注目され指名依頼も入るくらいの知名度と言えるだろう。
しかし、上位ランクになったからといって安泰ではない。成果が続かなければ降格もあるし、知名度に応じて難易度の高いクエスト依頼が増え失敗することが増える。
場合によっては、無謀な冒険で体に障害が残り冒険を続けられなくなることだってある。引き続き気を引き締め精進しなけれなならないだろう。
今日はダンジョン攻略の祝勝会を兼ねて、アレン達パーティメンバーで高級酒場に集まり今後について話し合うこととなった。
「本当に、マヤが加入してからの躍進はすさまじいな。その気があるなら正式パーティメンバーとして迎えるぞ?」
「一時加入って話やったけど、このままワイらと一緒に冒険をせえへんか?」
「それがいいわ。ここまで有名になれば、帝都生活で困ることはないわよ!」
この世界に来ていろいろやらかしたこともあったが、最近マヤはパーティを組んでのクエスト遂行が楽しく感じられるようになってきた。
アレン達は、ほとんど知名度のなかったマヤを見下すことなく受け入れてくれて、表裏のなく付き合いやすいメンバーだと思う。
メンバー構成的にも、お互いの長所、短所を補いつつバランスの取れたパーティだ。
このまま、アレン達と冒険を続けるのも悪くないと思うが、アレン達と約束したのは『帝都にいる間』という約束だ。
魔王ははるか西の『グレートクレパス』の先にいるはずで、アレン達は残念ながら魔王討伐を目指しているパーティではない。
このまま帝都で一生を終える覚悟であれば悪い選択ではないが、初心一徹、魔王を倒して元の世界に戻るのをあきらめたくない。
そして、元の世界に戻るのであれば若いうち…つまり、あと1年半以内に魔王討伐をしなければならない。そろそろアレン達のパーティを抜け、活動拠点を西に移す時期なのかもしれない。
「私なんかを誘ってくれて本当にありがとう。でも、魔王討伐を諦めるつもりはないの。そろそろ魔王討伐のため西へ向かおうと考えているわ。そうね。最後に記念として一つ大きなクエスト挑戦なんてどうかしら?」
「なるほど…な。元々の約束だから仕方ないか。それじゃ、Bランクパーティに相応しい討伐依頼に挑戦しようぜ!」
アレン達はこのまま帝都に残り冒険を続け、マヤは魔王討伐のため西を目指すことに決まったようだ。その前の最後のクエストとして、昇格した知名度にふさわしい討伐依頼を受けようということで方針が決まった。
「本当にありがとう。今回受けるクエストは私が選んでいいのかしら?」
「もちろんだ。明日にでも冒険者ギルドに行って決めようぜ。さて、今日は遠慮はなしだ。飲み明かすぞ!」
「はいはい。今日はしんみりとした話は禁止!マヤ、西に向かった後でも帝都に戻ってくる時には遠慮せず声をかけてね!」
こうして、貴重な平和な一日が過ぎていった。
――――
アレン達一行は翌日、前日の約束通り冒険者ギルドを訪れる。
そして、Bランクの依頼を中心にリストアップを開始する。
マヤは『重要NPCリスト』を眺め、名前が含まれるものを探すと…あったあった。
「
ファイアードレイクだが、帝都から北西の方角にあるロングフィールド山岳の火山帯に住みついていて討伐依頼が出ている。この討伐クエストを受けるのが都合よさそうだ。
ファイアードレイクは強靭な鱗に覆われた体に炎をまとい、口や鼻からブレスを吐くと竜種らしい。翼も持つが、空中を長距離移動できるようなものではないようだ。
そのため、生息域近隣では大きな被害がでているが、今のところ帝都まで被害が及ぶような事態にはなっていない。
もし、帝都に被害がでるような状況だった場合、大掛かりな討伐部隊が編成され、双方ともに大被害を覚悟の上でお互いの存亡をかけた死闘をしているだろう。
「そうだな。雑魚討伐よりボス討伐の方が面白そうだ。俺も賛成だ!」
「おっけー。ファイアードレイクの討伐クエストを受けましょう。腕が鳴るわね!」
――――
アレン達一行は、ロングフィールド山岳の火山帯近くの洞窟に入る。
そして、ほどなくしてファイアードレイクと対峙する。ファイアードレイクの周りに仲間はいなく、こちらが集団であれば勝てる算段だったが少し甘く見ていたようだ。
「なんてこと!ファイアードレイクの圧倒的な強さは何なの。防御魔法や回復魔法が全然間に合わない!」
「あかんて、ワイらの攻撃が効いている気がせんで!」
防火マントの準備などあらかじめ炎への対策はしてきたものの、圧倒的な火力の前にほとんど役に立っていない。アレン達一行は防戦一方な状況が続き、下手に突撃などすればあっという間に活動停止に追い込まれてしまうだろう。
火力だけでなく強靭な鱗に阻まれ、こちらの攻撃が効いているかどうかも怪しい。持久戦も避けたいところだ。何か弱点はないものか?
満身創痍になる前の現在ならば撤退することはできるだろう。しかし、ここで引き下がるのは少し悔しい。ファイアードレイクに何か弱点はないかと、マヤはいつも通りの観察力を発揮する。
――――
そう、マヤは気づいてしまったのだ!
「このファイアードレイク、よく見ると並行して別々の動作は苦手のようね。
前の動作中に別のことをしようとすると、少しもたついているように見えるわ」
ファイアードレイクだが、圧倒的な身体能力を持ち炎や毒を吐き空を飛び体当たり攻撃までできる。しかし、こんな複雑なことを並行して行うためには複数の脳や伝達神経が必要だろう。しかし、竜種にそんなものがあるなんて話は聞いたことがない。きっと、何か制約があるに違いないと推測する。
おそらく、指示を出す脳、情報を伝える脊椎は一つしかない。しかし、複数のことを同時に行えているのはなぜだろう?
実際には疑似的な並行動作なのではないだろうか?
現在の言葉で言い換えれば、一つのバスを共有して複数の通信をしているようにみせている疑似的な多重アクセスなのではないかと推測する。
もっと具体的に言うと、イーサネットで言うところの CSMA/CD 方式で動作していると判断した。つまり、処理の衝突を検知した場合新たな指示は中止され、ランダムな待ち時間を置いてから再指示して疑似的な並行動作を行っているのだ。
さらに、バスを共有しているということは例えば通信をループさせることでバスを埋めてしまうと、全くと言っていいほど何もできなくなってしまう。
そこまで推測したところで、マヤは再び考察する。
「ということは、ファイアードレイクの動作指示を意図して衝突させると本来の能力が出せないってことかしら?やってみる価値はあるわね」
マヤは推測を元に、アレン達に指示を出す。
「アレン!このドラゴン、並行して別々の動作ができないみたい」
「なんだと!それは気づかなかった。マヤ、どうすればいい?」
マヤは、パーティメンバーに指示を出す。
「アレンはファイアードレイクの予備動作を見て、ブレスを溜めている時は尻尾を、尻尾攻撃の時には目を狙って!」
「わかった。威力は低くていいから、動作を邪魔すればいいんだな」
「そうよ。ベンジャミンは、アレンの攻撃タイミングとは少しずらして」
「りょうかい。手数を優先してぼちぼちやったるでー」
「シャルロッテは後方から魔法による支援をお願い。長期戦になるのでペースはゆっくりでお願い!」
「わかったわ。弱めの魔法で少しずつ割り込むようにするわ」
マヤの予想は的中したようだ。わざとファイアードレイクに複数の動作が衝突するような誘導をすることで、最初の頃よりあからさまに動きが悪くなる。
並行した動作が苦手だとわかれば、ファイアードレイクにいくら強力な火力や防御力があるといっても対処可能だ。
アレン達一行はファイアードレイクの行動パターンを掴む。そして、相手の攻撃を食らうことなくファイアードレイクをタコ殴りに成功する。
そうこうすること数時間。時間はかかったがファイアードレイクの息の根を止め、討伐を成功させた。
「キター、これで『火竜殺しのマヤ』と異名を名乗ることができそうね!」
――――
教訓: CSMA/CD 方式を使って通信をする場合、適切にコリジョンドメイン、ブロードキャストドメインを分けて衝突を最小限にする。そして、ループを作らないこと
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