第10話 まさかの温泉回
アイテム出し入れ時の通信内容に意図的なノイズを載せることで、アイテムを複製する実験は成功した。アイテム増殖技を成功させるためには複製元のアイテム準備と名前の似通ったアイテムの準備、そして神業とも言える集中力が必要になるが、今後も役立ってくれそうな技だ。
しかし、実験に時間を費やしたことによって3週間の期限のうち2日を使ってしまった。マヤは急ぎ本来のクエスト達成に向けて準備を開始する。
運搬クエストということで、簡単に街と街の間を移動できる転移スキルのようなものがあればよいのだが、残念ながらそのようなものはなさそうだ。もしそんなスキルが存在するのであれば、難易度の高い運搬クエストは必要なくなってしまう。実際、この世界に長距離の転移スキルは存在しないのだろう。地道な運搬作業が必要だからこそ、運搬クエストが成立すると言える。
他の街へ転移するスキルは存在しないが、特殊なものとしてダンジョンなどで転移トラップが存在するという噂は聞いたことがある。
しかし、ダンジョン内の転移に限るなど短距離の移動にしか使えない代物との噂だ。
しかし、移動手段に使える転移スキルはないが、特定区間の高速移動手段は存在するようだ。この存在が、現在帝都に向かっている理由の一つである。
帝都に行けば魔法で動く『魔導列車』が存在する。運行区間内に限定されるが、これを使えば高速かつ比較的安全な移動手段として利用できそうだ。
残念ながらトップオーバーの街とスウォームホースの街を結ぶ魔導列車は存在しないため、素直に徒歩で往復して運搬クエストをこなすことにする。
――――
スウォームホースまでの道のりだが、かなり標高の高い峠をいくつも越える必要がある。そして、移動の大変さだけではなく、経路の途中で魔物が現れる可能性があるなど危険を伴う状況だ。LV25以上を必要としているのはこういった背景があるからだと推測する。
移動にはトラブルなく進んだとして片道一週間ほどかかる見込みだ。気を引き締めることにしよう。
「期限は 3週間だから、あまりのんびりもしてられないわね。先に進みましょう!」
移動はかなり大変だったが、凶悪な魔物に不意打ちを受けるようなことはなく計画通り進むことができた。予定通り一週間弱でスウォームホースの街へと到着した。
「ここが目的の館ね。預かってきたものがあるんだけど、この方に面会をお願いできるかしら?」
マヤは、使用人に依頼者から預かった書簡を渡し面会の約束をとりつける。
ほどなくして、依頼者の弟と面会することに成功した。
「おお。『青釭の剣』を持ってきてくれたか。感謝する。代わりに『倚天の剣』を預かってくれるか。これをトップオーバーの街に住む兄まで運搬をお願いしたい!」
とりあえず、片道分の仕事を無事完遂できたようだ。ほっと一息つけそうだ。
引き続き復路の運搬も万全に進められるよう慎重に準備へ取り掛かることにする。
――――
行きの行程ではスケジュールを優先して先を急いだが、まだ依頼を受けてから一週間と数日しか経過していなく多少の余裕ができた。帰りは最短コースではなく少し余裕をもって行動することにしよう。
「そういえば、火山帯の近くに温泉があったわね。こっちの世界に来てから、薬湯はあってもまともな温泉って見たことないし、立ち寄ってみようかしら?」
帰りの移動途中にある温泉に立ち寄り、体力の回復を図ることにしよう。
移動途中で怪我をして治療のため時間を費やしたり、体力不足で身動きが取れなく可能性がある。あらかじめ休養を入れて体力を回復させ、今後の冒険には万全の態勢で臨みたい。
「温泉なんて本当に久しぶりね。たまには冒険を忘れてゆっくりしないと!」
マヤは温泉に入ろうとする訳だが、装備品およびアイテム周りはシステム化されており、一般向けのゲームだと諸般の事情で全てを脱ぐことができない。
つまり、この手のゲーム世界ではすべての装備を外してもハダカにならなく、インナーウエアを付けたままの状態だ。
そんなことは気にせず衣服や鎧を着たまま温泉に入ることも行われているが、これでは体をきれいにすることができなく金属系の装備は傷んでしまう。
やっぱり雰囲気が重要だろう。温泉と言えばハダカの付き合いが基本ではないか。
「せっかくの温泉なのに、これじゃ雰囲気まったくでないわね。何かいいものはないのかしら?」
おそらく過去に同様の疑問を持った人がいたのだろう。
この世界では『マイクロビキニ』や『透明な装備』など、防具としての効果はほとんどないくせに非常に高価な装備が売られている。
そして、いまいち納得がいかないのだが何も装備しないインナーウエアの状態より、これらを装備した方が露出度が上がる仕組みとなっている。
せっかく温泉に入るのであれば、鎧や衣服を付けたままでは気分が乗らない。
「そうそう、やっぱり温泉はハダカの付き合いよね。これちょうだい!」
温泉に入るのであれば見た目も大事だと、変な義務感に苛まれるマヤであった。
――――
いつもの興味でマヤはある実験をしたくなった。
「ハダカっほく見えるけれども着衣しているのよね?着衣なんだから、うまくやれば
いろいろなところを盛ってごまかすことができないかしら?」
全くもって冒険には関係ない話だが、マヤも年頃の少女だ。他人からの視線が気になってしまう。そして、技術的に可能であれば記念に冒険途中のスクリーンショットを残しておきたい。
少しでも外見をよく見せるために、盛ったりデコレーションしてみたいのだ。
マヤは転生前の知識と様々なアイテムを実験につぎ込み、いろいろと試行錯誤を開始する。
――――
結論のみ言うと作戦は失敗した。遠目にはごまかせたかもしれないが、近くで見た時の動き、質感共に不自然さが抜けない。これだと、画像加工ソフトを使ってモデルさんの体にマヤの顔を合成した方がマシなレベルだ。
昔だとアイコラ、今だとディープフェイクと呼ばれる奴だ。名誉毀損罪等になりかねないのでお勧めしない。
「くっ、お金や技ではごまかせないってどういうことなのよ!
やっぱり早く日本に帰って元の生活に戻らないと駄目なようね」
この柔軟な発想能力を他のことに生かせよと言いたいところだがそれはさておき、当初目的の体力回復には成功したマヤであった。
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