第11話 マヤの天敵

 マヤは、初めてのお使いクエストを無事完了させることに成功した。

そして、持ち帰った倚天いてんの剣を届けるためトップオーバーの街に戻っている。

一応触れておくと、倚天の剣もアイテム複製済だ。そのあたりに抜かりはない。


 その後、トップオーバーの街で情報収集を進めたのだが、やはり魔王や魔族の情報については生息域と距離が離れすぎているためか、有用なものは得られなかった。

この先、もっと知名度を上げてゆくゆくはパーティを組んで魔王討伐を考えている。


 効率よく知名度を上げ優秀なパーティメンバー候補を探すことを考えると、人口の多いところの方が都合がよいだろう。その方が、クエストの種類も多く魔王や魔族についての情報も得やすいだろう。別にこの街で活動しなくてはならない理由はない。


「やはり、さっさと帝都へ向かうのがよさそうよね。では、帝都へレッツゴー!」


 マヤは当初の目的地でもある、帝都へ向かうことを優先することにする。


――――


 およそ2週間ほど時間をかけ、トップオーバーの街から帝都の入口まで到着した。

そして、帝都内に入るためには、他の街でもあったが犯罪者等でないことを確認するため、チェックが存在して少し待たされることとなりそうだ。


 帝都ともなると、出入りする人間が非常に多い。

不審な人物や品物を入れないようにするのは当然だが、中に入るための審査を少しでも効率化できるよういろいろ工夫がされていた。


 具体的には、現世の国際空港のイミグレーションのような雰囲気になっている。

まずは大きく『帝都居住者』と『外部からの訪問者』で窓口が分かれている。


『帝都居住者』が帝都へ入る場合は、審査手続きは簡略化され恵まれているようだ。


 今回、マヤは『外部からの訪問者』に該当するので、『外部からの訪問者』用の窓口へ向かう。


 そして、アイテムボックス以外の荷物の有無でさらに窓口が分かれる仕組みだ。

これも、国際空港の税関手続きと同様と考えてもらうと違和感が少ない。


 例えば、商人が商売用の荷物をアイテムボックスに入りきらないため荷車などで持ち込む場合、『荷物あり』側の窓口を利用する必要がある。

『荷物あり』の場合、アイテムボックス内を含め厳密な持ち物検査が行われるため審査時間が長く、審査完了まで半日待ちなどが当たり前の状況だ。そして、検査で関税のかかる持ち込み品があれば、必要な関税を支払う仕組みとなっているようだ。


 しかし、全員にここまで厳密な検査をしていたら、途方もない時間がかかり人の出入りや流通に支障がでてしまう。

そのため、アイテムボックス内の荷物のみの旅行者や冒険者に関しては『荷物あり』とは審査窓口を分け、簡易審査で済ませるようにしている。


 アイテムボックス以外の荷物はないため、マヤは『簡易審査』用の窓口へと進む。


「お嬢ちゃん。ここの仕組みはわかっているかい?一応だが事前に体力回復をさせておいた方がいいぞ」


「いいえ。帝都を訪れるのは初めてよ。仕組みを教えていただけるかしら?」


 マヤからの説明依頼を受け、審査窓口の係員は丁寧な説明を始める。


「そうか。帝都に来るのは初めてか。帝都内にまずいものを持ち込まないよう、帝都に入る全員に簡易審査による持ち物検査を受けてもらうことになっているんだ」


 審査窓口の係員は、マヤに対して説明を続ける。


「しかし、対象者全員のアイテムボックスの中身全てを確認していると時間不足だ。そのため、簡易審査で不審点がなければそのまま通過、あれば別室で『持ち物検査』を再実施って流れだ。わかってもらえたかな?」


 よかった。アイテムボックス内の詳細についての開示は極力避けたいところだ。

本来、ここにあるはずのない伝説級のアイテムを持っているのがばれてしまう。


 そして、審査窓口の係員からの説明がさらに続く。


「簡易審査方法だが、ここの検査用石板の上を通過してもらう。所持品の価値に応じてHPが減るから注意してくれ!」


 なるほど。検査用石板と呼ばれる『逆さつらら』のような踏絵が用意されている。

持ち込み品によってダメージが変わるので、踏絵に乗った後で怪しい挙動があったら別途『』コース突入ということなのだろう。


「よくわかったわ。この踏絵の上に乗ればよいかしら?」


 初めての踏絵ということもあり、マヤはあまり考えることなく乗ってしまった。


「うぎゃーーーーー」


「マヤに 2736 のダメージ!!

 マヤは しんでしまった!」


――――




 そう。帝都にとって持ち込まれてまずいものか、そうでないものなんて簡単に判断がつくはずがなかった。だから、ほどダメージを与える仕組みなのだろう。


 今のマヤは、少なくともこの世界に一本しかあってはいけない武器を2種類と、使いきれないほどのエリクサーを抱えていた。所持金の大小はダメージに関係しないとしても、普通の人間では耐えられないほどのダメージを踏み絵から受けたようだ。


 つまるところ、『』が準備されていて、マヤは見事に引っかかってしまったという訳だ。しかも、異常を検知するだけでなく対象者にカウンター攻撃するアクティブ方式とは。全くもって恐ろしい。


 しかし、幸いにしてマヤはエリクサーを所持していた。そのため、その場で気絶することなく即座に生き返ったが、。何か対策を考えなければ。


 ちなみに、エリクサーの消費は一つで済んだようだ。つまり、HP上限を大幅に超えるダメージでもオーバーキルされることはない仕組みのようだ。


「お嬢ちゃん大丈夫か? おいおい、いったい何を持ち込もうとしたんだ?」


 ま、まずい、このままでは追加の『持ち物検査』コース突入だ。何とかごまかさなければならない。


「ダメージのこと、油断していてつい大声をあげてしまったようね。ごめんなさい」


 今回が初めての踏絵で、単にダメージの想定ができていなくて油断したと係員へ説明する。幸いその場で気絶したままになったり、様子から判断されてヒーラーに担ぎ込まれたりはしなかったので、今回は何とかごまかすことができた。でも、今後同じ手は通用しないだろう。


――――


 ここではとても口に出せないので、マヤは心の中で叫ぶ。


「こんな恐ろしいトラップを作るなんて…マジで死ぬかと思った!

いいや一回死んだわ!」


 これを魔王の間までの通路に敷き詰めたら、きっとマヤは近づくことができないだろう。まさに


「駄目だこいつ…早くなんとかしないと…」


 踏絵一枚分の通行料がエリクサー一つという状況はどうにかして回避しなければと心に誓ったマヤであった。

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