第9話 はじめてのおつかい

 トップオーバーの街でマユの協力を得て知名度上げに成功したマヤは『Eランク』冒険者に昇格した。


 まだ、駆け出し冒険者から脱出した程度だが、これで採取や探し物だけでなく運搬系のクエストを受けることができるようになった。

もっとも、『Eランク』だとまだ制約が多すぎるのと、クエスト内容によってはランク以外の条件が入る場合が多い。引き続き知名度を向上させる必要がありそうだ。


 さらなる知名度向上を目指し、いまさらかよってツッコミはさておき冒険者ギルドでクエストを受けてみようと思う。

早速、マヤは冒険者ギルドを訪れ依頼を確認して回る。こちらには SQL インジェクション技で手に入れた重要NPCメンバーリストがある。これに該当する依頼者がいれば、そのクエストを優先するのがいいだろう。


 冒険者ギルドに到着したマヤは、さっそくクエストの並んだ張り紙を確認する。


「さてと、重要NPCメンバーリストにある名前はあるのかしら?」


 おっと、トップオーバーの街でも該当するものがあるようだ。運搬クエストだがLV条件が高いためか受け手がなく残っていたのだろう。


「ある物をスウォームホースの街まで運搬。Eランク/LV25以上。詳細は別途相談」


 おいおい。重要なことが何一つ書かれていなくてとても怪しいぞ…。

この説明だと、報酬は期待できず多くの冒険者は危険を察知して敬遠するだろう。

しかし、今のマヤはお金には困っていない。

おそらく、魔王を倒すために必要なイベントと何か関連あるのだろう。


「ソロ冒険者でも受けられるなら私にちょうどいいわね。これを受けるわ!」


――――


 マヤはギルドからの紹介を受け、クエスト依頼者のところを訪ねる。


「いやぁ。よくぞ参られた。秘密厳守でスウォームホースの街に住む私の弟まで運搬をお願いしたいものがあるのだ。そして、代わりのものを受け取り私まで届けて欲しいのだが受けてくれるかね?報酬は 2000G でどうだろう?」


 まだ、クエストを受諾していないので運搬物についての詳細は教えてもらえない。

しかし、運搬クエストなのでアイテムボックスに入れれば誰でも運ぶことができる。

移動中の危険さえどうにかできれば簡単に達成できそうだ。


 マヤは、依頼者に対して即答する。


「よっしゃ。私に任せなさい。ソロ冒険者でも大丈夫よね?」


「もちろん大丈夫だ。それではよろしく頼む!。緊急な運搬依頼ではないが、長くは待てない。往復して 3週間以内で構わないか?」


「大丈夫。問題ないわ。安心して私に任せて!」


 依頼者は、マヤからクエスト受諾の言葉を確認すると詳細について語り始める。


「そうか!非常に助かる。では運搬物の詳細について話そう。運搬して欲しいものはこの『青釭せいこうの剣』だ。これを渡す代わりに、弟から『倚天いてんの剣』を受け取ってきて欲しい」


 おお、これは三国志演義の中で出てくる名剣だろうか。趙雲子龍が愛用して、岩を泥のように斬ったと言い伝えられる剣だ。何故こんなところに伝説級の一品物の武器があるのかと思わなくもないが、この世界で何か重要な役割がありそうだ。


「わかったわ。3週間以内に『倚天いてんの剣』を持って帰るわね!」


 マヤは青釭せいこうの剣を受け取り、依頼者の屋敷を後にした。


――――


 さて、本来ならすぐにでも目的地のスウォームホースの街に向かうべきだろうが、伝説級の武器が手元にあるのだ。いつもの興味がわき

スケジュールには若干余裕がある。実験を終えてから出発でも何とかなるだろう。


 まずは実験の内容だが、以前から気になっていたことがある。アイテムボックスについてあらためて考えてみたい。


 そもそも、大きさや重さに関わらず物の出し入れができ、必要な時間も一瞬だ。

元の世界では考えられない仕組みだが、一体どうやって実現されているのだろう?


 マヤは、いろいろなアイテムをアイテムボックスへ出し入れを行い考察する。

何となく、以下のことが分かってきた。


「詳細はわからないけど、アイテム出し入れのタイミングでようね」


 どうやら、アイテムの移動時にアイテムを識別するがこの世界の魔法的な何かで行き来をしているようだ。


 例えばイーサネットであれば、シリアル化したデータをベースバンド伝送で電気信号なり光信号にして流している。これと同様に、この世界では魔法的な何かを使ってアイテムの通信が行われているようだ。


 そして、同種類のアイテムを出し入れした時には、同じ内容が送受信されることが分かった。さらに、同種類じゃなくてもアイテムの名前が近いほどの類似性が上がるようだ。


 ということは、もしこの通信内容を改ざんすることができたら、アイテムを偽装スプーフィングしてことができるのではないかと。


「試してみる価値がありそうね。『青銅せいどうの剣』なら武器屋で安価に調達できるし」


 今までの実験で、『青釭せいこうの剣』と『青銅せいどうの剣』で通信内容にはわずかな差しかないことが分かっている。


 そう。マヤは気づいてしまったのだ!


青銅せいどうの剣』をアイテムボックスに戻す処理の通信中に、意図的なノイズを発生させて通信内容にデータ化けを起こしたらどうなってしまうのだろうと。


 早速実験をしよう。人間業とは思えない正確なタイミングでシステムに割り込みをかけ、ビット単位でデータを化けさせ『青釭せいこうの剣』と同じ内容に通信を改ざんする。


「キター。『青銅せいどうの剣』がなくなり『青釭せいこうの剣』が合計2本になったわ!」


 アイテム複製技が誕生した瞬間である。これを意図して引き起こすことができれば、重要なアイテムを複製してクエストを有利に進めることができるに違いない。


「現時点でこの剣の使い道は思いつかないけど、後で何か役立つかもしれないわね。とりあえずキープしておきましょう!」


――――

 教訓: 通信内容の暗号化を実施&チェックサムを付け不正データを検知すること

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