魔術師 母校を案内される

 昨日は良い出会いがあった。

 あの子、アリス.クランベルという生徒に会えて大分学院の事を思い出してきた。よく、風紀委員の詰所を襲撃してはあのサンドイッチを食べたものだ。


 さて、彼女が来るまで思い出に浸るのも良いが、今日は事務員が学院を案内してくれる予定だ。

 そろそろかと思っているとノックが聞こえてきこえ、玄関に向かいドアを開ける。


「おはようございますレリック先生。本日は学院の案内と同じ科目を受け持つ方との顔合わせをお願いします。」


 彼の言葉に従い、街の中心に向かう。街並みを観察しながら学院に向かっているが、私の知ってる街並みと随分違う。


「私のいた頃と街並みが随分変わっているな。」


「ああ、ここら辺は五年ほど前に生徒の一人がて建物を吹き飛ばしてしまいまして。古い建物が多かったのでこの区画を建て直しを行ったのです。ここ以外は先生の頃と変わってないはずですよ。」


 その吹き飛ばした生徒がいると聞いて納得してしまう。

 年に一人位はそういうバカがいる。

 私の頃はせいぜい建物の一つを丸ごとゴーレムにした位だ。



「レリック先生はここの卒業生ですので主要な所は省略して、授業していただく教室から案内してもよろしいでしょうか?その後他の教員との顔合わせ、最後に図書館の利用についてになります。」


 事務員の提案は有り難かった。今の所、学院で利用する施設は事務と食堂位で、他の施設を利用する予定は無いし、あったとしてもその時に案内してもらえば良い。

 案内されたのは二階の大講堂の一つだ、百人位は入れるだろう。

 初級魔術は初学年の全学科必修科目なので受講生は大体300人程。確か、同じ規模の教室が後二つあるから初級魔術の担当は私を含めて三人だな。


「次は他の教員との顔合わせです。科目責任者のバーナード教授の部屋で行います。」


「バーナード先生は教授になっていたのか、私の頃は助教授だったと思うが。」


「ええ、バーナード教授は二年程前に教授になりましたよ。因みに、レリック先生を講師に推薦したのはバーナード教授ですよ。」


 バーナード先生は火の魔術が専門の魔術師だ。

 私は良く先生に質問をしていた。

というか、私が講師に採用されたのはバーナード先生の提案なのか。

 確かに私は先生の所に通っていたし顔を覚えてるので当然と言えば当然かも知れない。

 

 教授達は学院の最上階に部屋があるので飛行の魔術で一度中庭に出てから飛んで向かう。

 学生の時は飛行の魔術を覚えるまでは馬鹿みたいな階段を登る必要があり、必死に覚えたのを思い出す。


「バーナード教授、レリック先生をお連れしました。」


「入れ。」


 事務員に促されて部屋に入ると、バーナード教授は奥の席に、手前のソファには二人の男女が座っている。知らない顔だが人数からして彼らが一緒に働く講師だろう。


「やぁやぁ、久しぶりだねレリック君。大分、活躍しているみたいじゃないか。講師を受けてくれて感謝するよ。」


「ご無沙汰しております。私としてもこのような名誉ある仕事に着けて感謝してます。しかし、バーナード先生が初級魔術の責任者になるとは以外ですね。」


「なに、君を推薦した人間だからね。最初の一年は監督する事になっただけだよ。ああ、それとここにいる二人は君と同じ初級魔術を教える講師だよ。」


 バーナード教授が彼らを紹介すると、男の方が立ち上がり此方に顔を向ける。


「私はブロムだ。君と同じここの元生徒でね講師としては二年ほど勤めている。バーナード教授に推薦されたの腕を期待するよ。」


「レリックです、新米としてよろしく頼みます。」

 

 握手に応じながら彼を観察する金髪碧眼でガッシリとしている恐らく生徒の頃は騎士科だろう。


「私はミシェルよ宜しくお願いするわ。本当はバーナード先生の所の研究員だけど今年は講師も勤めるからあなたと一緒ね。」


 ブロムと握手を終えると、女性から挨拶を受けた。

 研究員とは教授の元で働く人の事で学院からではなく教授に直接雇用されている。

 バーナード先生の研究員と卒業生二人、恐らく先生への態度からしてブロムもバーナード先生を師事していたのだろう。

 対外的にみれば初級魔術の授業は全てバーナード先生に関わる人間が教える事になる。

(政治には興味無いが余りに露骨だ。派閥争いは学院の名物か。)


「では、私はこの辺で。これから図書館の案内の他手続きがまだ残っているので。ではバーナード教授失礼します。」


「では来月から宜しく頼むよ。君の教える一年生は可能性の塊。しっかり芽を伸ばすように導いてほしい。」


 政治には関わりたくは無いので顔合わせも早々にこの場を離れ、部屋の前で待機していた事務員と共に図書館に向かう。


「レリック先生は既に知っているでしょうが、此方が学院の図書館でございます。一階から上階全ては生徒でも閲覧可能ですが、レリック先生の場合地下三階までの閲覧が可能になります。」

 

 図書館は相変わらずカビと埃の匂いを放っている。この図書館は上階を一般的な図書や初心者用の魔術書が貯蔵されていて生徒でも読む事が出来る。地下は全て閲覧制限がかかっていて私の権限では地下三階まで閲覧可能みたいだ。

 地下二階の本までしか学生の頃に読んだことはない。

 地下三階の本は人体等の肉体に関わる蔵書が多いと聞く。



 無事に顔合わせと施設案内を終え、学院前で事務員と別れる。

 既に何かしらの政治争いに組み込まれてる可能性があるが、気にしないでおこう。めんどくさいしくだらない。

私は家に向かって歩いていると家の前に誰か立っているのを見た。

 待ち人に近づき、顔を見てようやく思い出した。彼女アリス.クランベルと会う約束していたことを。

 

 


 

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