第3話

それは何。

っと、私は夫に問いました。

避妊薬さ、夫はそう答えました。

そんなものを今さら買って来てどうなるのさ。私はため息ながらそう言いました。

聞いてくれ。

この避妊薬というものを飲むと子を産まなくて済むかもしれないのだよ。

夫は静かにそう言いました。

その時の表情はいまだに忘れません。

あんなにも真剣で、全てを覚悟した表情は見たことがなかったからです。

私にこれを飲めというのですか。

夫は静かに頷きました。

私は今になってはその行動が正しかったと思っていますが、その時の私には考えられないものでした。

嫌よ、私は嫌よ。

私は少し感情的になりながらそう答えた。

いくらお金がないからといって、せっかく産まれてきてくれようとしている子を殺すなんて、私には無理よ。

それに対し、夫は尚も冷静に答えました。

なぁ、お前よ。

俺達はもう子を持つ親なのだよ。俺は産まれてきてから親になると思っていたのだがそうじゃない、もう子を身ごもった時点で俺達はもう親なのだよ。

親が子の幸せを願うことは当然じゃあないか。

このまま産んで子が幸せになれるとでも思うのか。

俺は聞いたんだよ、同僚に。

子が産まれてから大変だ。しつけもそうだが何よりお金が大変だ。

ちょうど今、幼稚園の年長なのだが次の小学生になるためのお金が思ってたよりすごくてね。

国の支援金も思ってたより少くて。

それはないよりましだけど、ほとんど意味がないよ。

毎年、教科書を買う金も必要だし、制服も買い換えなくちゃならねえ。

正直の所、今から中学生になった時、どれ程かかるのか、今から怖いよ、と。

そいつの奥さんも働いてるのだがそれでも足りないらしくてよ、親戚にお金を借りてるらしいのだよ。

考えてみてくれ、俺達には子を幸せにできる金がない。だから、頼む。

そういって、夫は私に頭を下げた。



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