第9話

朝靄の中、ある二人組が港町へやってきた

1人は黒いコートに山高帽、灰色の髭を蓄えたがっしりした体格の男

1人は浅黒い褐色肌に灰色の髪をしたメイド、神秘的な雰囲気の女

二人が通る大通りには港町特有の活気は無く、時折誰かが走っていたり、荷車を馬で引いている姿を見る程度だ

思った通りの陰気臭い町だと吐き捨てながら歩いていると正面から10歳ぐらいの男子が男に衝突した


「イッテェな!ふらふらしてん…な…」


ぶつかった男の顔を見た男子は怪物を目の当たりしたような表情をし、大丈夫かと言う男の声も聞かずに一目散に逃げてしまった


「あれ…バレたかなぁ、バレたかなぁ?」


「子供ですし、主様の顔が怖かったのでは?」


「ヒドイ」


「冗談です、主様」


男とメイドは軽い談笑をしながら近くの酒場に入っていく

酒場は早朝だと言うのに客もまばらだが居るようだ

店主に話を聞こうと一歩を踏み出した時だった


おい…まてよ…そんな事あるのか


店主の顔、どころか、全身がほぼ魚そのものな魚人であった


お、あ…まって…まって…

インスマス面…とか、その辺りから責めるパターンじゃん…普通は、なんで…ナチュラルに魚人で来るの…

申し訳程度に蝶ネクタイしてるのがイヤだよ…おしゃれか、それは、なんで…なんで…


悶える姿を心配そうに見つめるメイド

その顔を見て精神を、落ち着かせ、覚悟を決めて話を切り出す


「店主、我々は宿を探しているんだが、この辺りに宿はあるだろか、在れば教えて欲しいのだが」


その言葉に店主は口を開く


『チュバチュバ はぁ チュバ はぁはぁ チュバちゅばチュバ ハァちゅばハァハァ ウゥェッッツッ!じゅる じゅる ちゅば はぁヴッッ!』


正体を隠す気が微塵もネェエエエエエエエエ!!!!!

なんだおまえは!!!

なんなんだおまえは!!??

一丁前に蝶ネクタイなんか着けやがって!!!!

しかもグラス磨いてるのかと思ったらビチャビチャネバネバじゃねぇか!!!

素手でグラス拭くんじゃねぇ!!!!!

クッッッッッそがッッッッッ!!!!!!!


『おいおい、あんた、じいさまは訛りが強くて外の人とは会話が出来ないんだ、話なら俺が聞くよ』


内心、正体露見レベルで取り乱したが何とか顔には出さずに乗り切った


「ああ、そうだったのか、すまないな、ありが…」


話かけてきた男は下半身がジーパン、上半身が半裸の

魚人だった


コイツらはヨォ!

正体隠す気無いんか!?


『俺はこの町で流通の仕事をしてるタラって言うんだ、そのじいさんはコイ、よろしくな』


「私は…」


そう言えば私はこの世界での名前を持っていなかった

花子…はおかしい、花、フラワー…チルドレン…


「私は、チルドワと言う、こっちはエリザβ」


「チルドワさんね、宿さがしてるんだって?ならここの裏が宿になってる、安くしとくよ」


「なるほど…ここで来訪者に声をかけて客にしてるのか」


「そうそう、あんた達は網にかかった魚ってわけ」


「誰がうまいこと言えと…」


「え、なんて?」


「いや、この町の事で聞きたいんだが」


「答えられる事ならなんでも」


この町は古くからある漁村であったらしく

船などの流通が発達した後発展して港町になったそうだ

この男は実家が宿を経営していて

流通の仕事が終わると酒場に来て客を誘っているらしい


「この町の珍しい事はあるか?」


「珍しいかはわからないけど、町の奥に行くとピースリー博士の館があるよ、しばらく留守みたいだけど」


なかなか良い情報だな、後で見に行くか


「ありがとう、もう少し町を見たら宿には行かせてもらうよ」


「待ってるよ、ダンナ!」


酒場をでて店の看板を見る

【blue wind】か、しばらく厄介になるな


「主様、この後は?」


「さっき話に出ていたピースリー博士の館へ向かいながら町の情報を集めるとしよう」


「ピースリー博士は科学的、魔術的にも有名な方です、何か分かるかもしれませんね」


「まぁ不安もあるがな」


「不安、ですか、それは?」


「ピースリー博士については全く知らないが

科学と魔術両方が有名なのは個人として出来すぎだろうよ」


「では、先に博士を調べるので?」


「館へ着くまでに多少な、行くか」


朝靄も晴れてきた港町に二人の異形が入り込む

これから先に起きる【勇者】を生み出すため

彼が起こす狂乱の遊びは、まだ、始まったばかり

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異世界転神!?ニャルラトテップ モンド・エド @tagame00x

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