第8話

夕暮れ時

西にある大きな港町に、一人の男が足を踏み入れた。

カウボーイを彷彿させる姿の男は、ジャケットを脇に抱えるように持ち、濃霧の港町を進んで行く

この男の名はアルバ、かつてこの港町で生まれ、逃げた男だ

港町から遠く離れた街で探偵をしていたアルバは、4日前、西の港町に住む令嬢から依頼を受けた

事務所へ来たのは、老けてはいるがしっかりとした体格の執事だ

依頼内容は『祖父の残した秘密を解く』と言うもの

最初は断ろうかと思ったアルバだが、報酬が高額で、しかも報酬とは別に前金をもらってしまったため、受けることにしたのだ


「ここだな…」


執事から、協力者として他の人材を雇っているので、現地の酒場【blue wind】と呼ばれる青い酒を出す店で待ち合わせをしてもらうように言われたのだ

酒場に入り辺りを見回すと、夕暮れ時にしては人が少なく感じる

俺は1つのテーブルへ迷わず進み、椅子に座る


「アンタらが協力者だな?」


そう言うと、テーブルに座っていた3人の内1人が喜びながら返してくる


「よくわかったねぇ!アタシは今日初めて会うから入ってきた奴に声かけて確認してたのに!」


オーバーオールを着た赤茶髪の女は、やたらと明るく

外見的に見れば整備士だろう


「まぁ、このテーブルにだけ何も無かったからな

あと、この港町に合わない面子がこのテーブルだったのもあるな」


「へぇ、君は探偵なのかい?」


生っ白いスーツを着た黒猫男が微笑みながら聞いてきた

俺達は互いを知るべきだと伝え、自己紹介がはじまる


「はい!アタシはロリーク、特殊蒸気整備士なんだ」


「特殊蒸気整備士、と言うことは蒸気鎧関係ですか?」


「よく知ってるね!」


「ええ、多少は、では次は私が

私はティーテ・アガム、と言います。

古い武具などを収集、研究、販売をしています。

考古学者の商人…といったところでしょうか」


「へー!先生なんだ!何かすごい」


「先生とは違うのですがね…

最後に来た貴方は、警官、もしくは探偵…でしょうか?」


「ああ…そうだよ、アルバってんだ、あのじいさんに頼まれた仕事で呼ばれたお前達の協力者だ…で、一番気になってるソコのアンタは?」


視線の先にいる男は…いや

白く、無機質、だが確かに生物であるとわかる

男の姿は、黒のスーツに身を包む骸骨

異形の男は口を静かに開き、語る


「はじめまして、自分はボーマン、と、言います

この外見は、生まれついて、の、古い呪いです

見た目は骨です、が、見えないだけで、肉はありますの、で、安心してください」


「古い呪い…私も、最初目にした時は驚きましたが、そう言う事情ですか」


「僕も声かけた時はおどろいたよ!」


この女声かけたのか…スゲェ度胸だ


「それで、骸骨のダンナは何を生業にしてるんで?」


「自分は、殺し屋です」


場が一瞬、静止する

スーツ姿の骸骨男が殺し屋だと言えばこうなるだろう

アガムは興味深い、と言った顔を

ロリークはとりあえず強い人なんだろう、と言った顔を

俺自身はかなり危険視すべきヤツだと判断した


ボーマンは懐から拳銃を取り出し、机においた

それは一目見ただけで【自分達が知らないモノ】であると感じる


「自分は、嘘をつく事が、出来ません

ですので、まともに、依頼が来ることがありません」


だろうな


「ですが、受けた依頼は、全て完遂してきました

的はもちろん、仕事をみられた事もありません」


「アンタ、かなり真面目と言うか、神経質と言うか」


「完璧主義者、ですかね」


全員が自己紹介を終え、頼んだ料理と飲み物を楽しみながら依頼の話へと進んで行く


「そんで、今回の依頼なんだが、ここにいる全員がピースリー博士の遺産調査集まったって事で間違いないな?」


「そうですね、世に残したピースリー博士の膨大な成果、その遺産となると私も断れませんでした」


「蒸気鎧の産みの親!博士の残した資料や図面!もしかしたらまだ知らない蒸気鎧が見つかるかも知れない!こんな話に乗らないわけないよ!」


「自分は、ピースリー博士の魔術研究資料、を

、よみまして、この身体を治せるかと考えました」


「各々の目的は違うが、野心はたっぷりってことか」


「あなたはどうなんです?

探偵として…とは思いつかないものでね」


「俺は…なんでだろうな」


「まぁ、いいんじゃない?

とにかくアタシ達は一緒に進む仲間なんだから!」


底抜けに明るい女、ロリーク

一癖も二癖もありそうな猫男、アガム

殺し屋の骸骨男、ボーマン

そして俺、探偵のアルバ

この時は考えもしていなかったのだ

想像を越える神秘を体験してしまうのだと






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