第7話

エリザβ渾身のドヤ顔をよそにハーバード氏が話を切り出す


「邪神…ですか、興味深い」


犬の顔のせいで表情が読み取りにくいが、真実として聞いているようだ

立ち振舞いや言動を観察していて思う


この人のほうがニャルっぽい

むしろSANが0なのかもしれん


「ふむ、邪神様は今後の予定などはありますか?」


やはりハーバード氏の顔は今一つ読み取れないが、彼が今何を考えているのかはわかる

《すごく面白い事をおもいついた》

そんなところだろう


「まぁ、いえ、無いですな」


「フフ、そうですか、では1つお願い…いや、仕事を頼まれてはもらえませんか?

もちろん報酬は払いますよ」


その言葉には明らかな含みがあったが

並大抵の事で死ぬような邪神ではない

裏があるにせよ

仕事として得る経験も多いだろう

私はこの怪しい仕事を受ける事にした。


ハーバード氏は仕事の内容を説明すると言って、私達を実験室へ招き入れる

ソコは実験室と言うよりは手術室と言った方がしっくりくる部屋であったが

よくよく考えてみれば彼は医学者なのだから当たり前であった。

ハーバード氏が部屋の中央にある大きなシーツに手を伸ばす。

シーツに隠してはいるが、シーツ越しでもその形状が人の形をしているのがわかる


「貴方達にはコレの調査に行っていただきたいのですよ」


ハーバード氏がシーツを外すと

ソコには淀みきった瞳に、ヌメリが残る肌、魚以外何者でもない顔があった。


「ある漁村からやって来た商人だったのですが、強盗に襲われてしまったらしく、その際に頭部を強打され死亡、他の病院で死亡したのですが、この姿を気味悪がって私の所に持ってきたのですよ」


深き者…

リアルに絡むと面倒そうなのが来たなぁ

やっぱり教団とかがあるのだろうか


「場所はどの辺りで?」


冷静に話を進めようとしたのだが

私の切り返しにハーバード氏はフフフと笑う


「この姿を見ても驚きませんか、流石ですね」


この人に隠し事は難しそうだな

何かしら探ってくる

まぁ、邪神と言っているから仕方ないが

驚く素振りをしなかったのは少し不味かったかもしれん

ちらりとエリザβを見ると、両手を目に当てて見えないようにガードしている

犬顔は平気なのに魚はダメなのかエリザβよ

視線をハーバード氏に戻し、話を続ける


「場所でしたね、ここから西に向かった先にある大きな港町です、ここのオベリスクより大きいのですぐにわかるでしょう」


私は相づちをしつつ、深きものを触って注意深く調べていた


「これは…」


「…どうかしましたか?」


ハーバード氏が静かに問いかけてくるが、なんでもありませんと答え、一礼し、その場を去る


去った後の実験室にハーバード氏一人が残る

その顔は、牙をむき出しにした獣そのもの

しかし、人にとってそれは、正しく笑顔なのだ


町を西に出てすぐの道


「主様、どうかしたのですか?」


エリザβがこちらの顔を不思議そうに覗く

その顔を確認して頭をやさしく撫で、微笑む


「ああ、深きものの体を調べていて気づいた事があってな」


「それは、どのような?」


「あの遺体は服こそ脱がされていたが、まだ人としての部分が多く残っていた。

おそらく最終変貌手前だろう」


「それが、おかしいのですか?」


「深きものは陸と海の両方を行き来できるんだが、かなり閉鎖的でね

ここまで変貌している深きものが内陸部に出てくるのはあり得ない」


「では、どうして出てきたのでしょうか、商人として来たようですけど、関係が?」


「行商が関係するかはわからないが…コレが関係しているだろうな」


「それは?」


私の掌には三角の金属に文字が書かれたシンボルがあった


「…さてね、あの深きものの肌に埋もれていた、もしくは埋め込まれていた物だ、このシンボルが正しければ、多少話にはなりそうだがね」


シンボルを見る限り、深きものよりは話せそうな相手が出てきそうだが…退化の度合いになるだろうな

そう考えていると、エリザβが何度も辺りを見回している事に気づく


「どうした?」


「何か、視線のようなものを感じました、人ではありません」


言葉を確認してすぐに周辺を感知してみる

成り立てとはいえ邪神だ、そのくらい出来るはずだ

…周辺には小さな動物や植物しか感じられない

となると、何かしらの怪物か、興味本意の神か…


「エリザβ、注意して進むよ、夜になれば元の姿で先に進む」


「わかりました、主様」


その後、夜になり、一気に西の港町が見える場所に到着した。

ハーバード氏が言っていたように港町の上空には巨大なオベリスクがある。

海から陸に向かって広がっている町は、いまだに拡張を続けているようだ

そして、人ならざる気配も存在している。

この港町は混沌としている。

なにも知らないだけの人間や異形の怪物が混ざりあって成立している。


「主様、町へ行きましょう」


「ああ、そうだな、だがまだやることがある。

この町を正しく成り立たせるためのな」


私はこの町の調査をしに来た

だが、それ以外の行動は自由だ

これから起こる話を想像すると自然と笑みがこぼれる。


「さあ行こうエリザβよ、究極至高の恐怖を観るために」


暗く湿った夜の港町に狂気の道化として、その歩みを進める

恐るべき異形共に希望はない

無知なる者へ消えぬ甘美と狂気を

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