第5話

クォール、《這うもの》と呼ばれる娘は【彼女】を見ていた

何処かの村娘か、町では見ない服装で嬉しそうに自分の手を引いて行く


気がつけば墓地についていた

暗く重量のある空気が体を包む

【彼女】は私に聞く

『新しい貴方になってみない?』

その意味はわからない

【彼女】は、私を語った

呪われた私のこれまでを笑うように語り、言った


『ここまでの命を新たな命へ捧げられるか?』


私は【彼女】が私をどうしようとしているのか理解することが出来ない、だけど、断る理由も意味も無い


「いいよ、捧げる」


そう告げると【彼女】は不気味に笑い、自らの腕を引きちぎって私に渡した

渡された腕は黒く怪しく光り私に絡みついてくる

【彼女だった者】はこの世のものとは理解しがたい異質な姿へ変貌し、名状することの出来ない言葉を吐き続けている

直後、私は私を見返していた、見知っている風景、人、動物、そして…知ることのなかった母の顔


『「お母さん…」』


私は全てを知った、この世界の事、【彼女】の世界の事…いや、ニャルラトテップ様の事



『成功した?』


生きた人間に自分の血肉を使って人造人間の術を使ってみたけれど、成功するか不安だった

少女は13才ほどの見た目だったのだが、術後に見た限りでは16~8程に変化している、髪も黒髪から灰色になり膚もかなり白黒なった


『SAN0みてぇ』


「貴方がそれを言いますか」


少女は静かに立ち上がると私を凝視する

全身をくまなく確認すると、目を閉じ胸に片手を当て語る


「改めて、はじめまして、我が主たる外なる神よ、私は貴方の眷属、貴方に全てを捧げましょう」


少女の誓いを目の当たりにした私は


『とりあえず服を着ろ』


墓地に全裸という状況は問題だと悟った


【彼女】になった時の服をとりあえず着せて再度話す、眷属、従者となって少女は様々な知識を獲得したらしく、察するに外なる神の血肉を得た影響…と言うより副作用と言えるモノのようだ

名付けを望んできたのでエリザα(ショゴス)に続けてβ、エリザβ

エリザβ・クォールと名付けた

名前を気に入ったようで、少し無表情寄りの笑顔を見せる

しかし、すぐにこちらを見つめ、話を聞いてきた


「人造人間の術を偶然とはいえ眷属に変える術に変化させるとは驚きです」


『正直、色々驚いてるけどね…』


「先ほど言いましたが、私は貴方の従者です、今後の方向…目的などはありますか?」


…女神をぶっとばすか探険くらいしか考えてない、なんて言ったらどう思うだろうか

よし、正直に誤魔化そう


『私的な目標ならあるが、この世界での大まかな目的は無いな』


「そうですか…時に、主様は魔王をご存知でしょうか?」


は?…魔王?


『魔王って、魔物を統べる王の魔王?』


「はい、その魔王です」


マジか、科学も魔術もあって19世紀くらいの世界とはいえ、ここまで発展した文明世界に魔王がいるとは…

待てよ、ならもしかして


『魔王がいるなら勇者とかいもるのか?』


「いいえ、勇者は今現在は存在しません

ですが勇者の血脈が生きてますね

それぞれ勇者足り得る可能性を秘めております」


『ふーん、魔王は何してるんだ?』


「各地の魔王は悪鬼怪異と共に国を作り日夜人間と争いを続けているようです」


やっぱり仲良くは無いのか、そういえば【彼女】の記憶には魔王はまったく出てこなかったな…


『この地域には魔王の手が届いてないのか?』


「いえ、この地域の魔王は知略に長けていまして、魔王を連想、発言できないように、オベリスクを利用しているのです」


『それで誰も話さない、話せないのか…』


「はい、私は主様の眷属となりオベリスクの影響を受けなくなり、話す事ができるようになりました」


『魔王の容姿等はわかるか?』


「いえ、容姿は不明です、情報では男女二人組でどちらも美しい外見であり、貴族のようだ…と」


『詳しく知るには探る必要があるな』


「変身して町に潜りますか」


考えてみたら【彼女】の姿で探る事が少し異質だ、女二人だと何かしっくり来ないような気がする、そもそもどういう関係で行くのか悩ましい、男の姿が欲しいな


『そうしたいが、変身のレパートリーが【彼女】以外無いんだ、誰かに変身するとその人物の死まで自我が失われてしまうから時間を取る』


「…でしたら良い考えがあります」


エリザβは無表情ではあるが口だけ微笑むように笑い、内容を話した


数時間後


少し背が高く体格も良い浮浪者の男とエリザβが共に森に入ってきた

男は少し興奮気味にエリザβへ「ここでいいだろ?なあ、我慢できねぇよ」と聞き続けている


「そうですね、ここで良いでしょう」


エリザβが浮浪者へ振り向くと、浮浪者は何かとてつもないモノを見たかのように怯えだしガクガクと震え、突然ハッとしたようにエリザβをみると「なんだ、今の、わかんねぇけどヤバかったのはわかる…嬢ちゃんは今の見たか?」

驚きながらエリザβに共感を求めると


「お疲れ様です」


そう告げるとエリザβは浮浪者へ両手を差し出す、両手にはドクドクと脈打つ肉の塊、浮浪者は瞬時にそれが自分の心臓だとわかる、何故、どうして、何が、そんな言葉を吐きながら浮浪者は地に身体を預けた

一時の静寂の中、エリザβの前で【浮浪者】はむくりと起き上がり手や身体を確認し、エリザβへ喋りかける


『いい手際だなエリザβ』


その言葉を聞き嬉しそうに微笑む


『人間に変身してからエリザβが殺せばそのまま変身のレパートリーが増える、二人いなければ出来ない事だが良い策だ』


自分の作戦を褒められてドヤ顔を見せるエリザβを見てついでに頭を撫でる、エリザβは驚いた様子でワタワタとあわてて下がってしまう

【浮浪者】姿の花子はニヤニヤ笑いながら次の行動にうつる


数時間後、昼下がりの町に髭を蓄えハットを被った黒服紳士と同じく黒服メイドが町を歩いていた


『エリザβ、服は気に入ったかな?』


「はい、主様とても気に入りました」


『それは良かった』


杖をつき、今後の話をする二人


「宿泊は何処かのホテルへ先ほどと同じように騙して入れば良いでしょう」


『そうだな、だが金銭の問題は早急に解決しなくてはな』


「今後は金策ですね」


『…そうだ、決めたぞエリザβ』


「何をでしょう?」


『目的だよ、私達の』


「それは、なんでしょうか、主様」


『勇者を作ろうと思う』


「フフフ、とても素晴らしい考えです」


邪神とその眷属はまるで子供の様に笑いながら町へと消えていく

邪神は勇者を作り、魔王打ち倒す

王道を邪神の手で混沌へと導くための

邪な神の遊びが始まる

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