妖精王女とロリコン

リトル・ティターニア

〜土曜日。昼過ぎ〜


――ピンポーン



「はいはーい……今出ますよ―」



ガチャリ



「眷属! 遊びに来てやったぞ!」



 ドアを開けると見慣れた。満面の笑みの杏子ちゃんだ。


 あの雨の日以来、杏子ちゃんはちょくちょく俺の家へ来るようになった。

 俺としても楽しいし、お礼という形で杏子ちゃんのお母さん、花梨かりんさんの手料理が食べられるので願ったり叶ったり。


 はじめはお金を払おうとしてくれたんだけど流石に申し訳なくて断った。それはちょっと違う気もしたしね。



「おじゃましまーす」



 相変わらず礼儀正しい挨拶だなあと感心していると、杏子ちゃんの後ろからもうひとつ影が。



「ごきげんよう」


「えっ……?」



 俺の胸ぐらいしかない杏子ちゃんよりもさらに小さい身長。ふわふわの金髪っぽい色(後で調べたら『アッシュゴールド』と呼ぶんだとか)のロングに刺繍の可愛らしい白のワンピース。どこか幼い表情のその少女はまるで……



「妖精さん?」



 春の午後。おっさんのアパートに妖精さんが舞い降りた。



〜中二少女事情説明~



「そうか、眷属は初めて会うのだったな」



 まあもちろん杏子ちゃんの知り合いだよね。妹さん……にしては似てないけど。



「では私から自己紹介を。私の名前は『リトル・ティターニア』、お察しの通り妖精の王女です」


「はあご丁寧にどうも」



 妖精王女中二病ね。杏子ちゃんとはソレ繋がりか。


 ティターニアといえばシェイクスピア作の戯曲『夏の夜の夢』に登場する妖精王オベロンの妻だ。それのリトル、つまりはとりかえ子を元にしてるんなら凝った設定だな。

 ……いや、暗黒神が安易だなんて思ってるわけじゃなくて。



「眷属? 何か失礼なことを考えてないか?」


「ええっ!? ないない、ないよ! そんなこと……」


「むむー……怪しい」



 杏子ちゃんはたまに鋭いから困る。



~昼過ぎのリトルティターニア~



「……お二人は仲がよろしいんですね」


「ふふん、主と眷属ぞ? 血よりも濃き関係よ」



 言われてみれば不思議な関係だよなあ。お隣さんっていうのが一番説明しやすいけど。



「そういう二人はどういう関係なの?」


「私は人間界では『不破ふわ 仁亜にあ』という中学二年生として過ごしています。先日偶然校内で魔力を感知しまして、黒川さ……んこと暗黒神と互いの真の姿を知り合う仲になりました」


「クラスは違うのだがな。人ならざる者同士、互いの苦労やこれまでの活躍等を語らう関係よ」



 良いよなあ、中二仲間。おっさんは他人に暴露する勇気なんてなかったよ。まあしなくてもバレてたみたいだけど。



「つまりは学校の友達ってわけね」


「ええ。そう思っていただければイメージとして相違ないかと」


「友達……えへへ」



~おっさん、お茶を用意する~



「ええっと、それで仁亜ちゃんはどうしてウチに? もしかして『Cthulhu-MAN』を借りに来たのかな?」


「不破です。上の名前で呼んでいただいても?」


「ああごめん、不破さんね」



 思春期だもんなあ、知らないおっさんにいきなりちゃん呼びされるのは抵抗あるか。杏子ちゃん基準で考えちゃってたよ。



「私は本を借りに来たわけではありません。それよりも眷属さん、あなたにお話があって参りました」


「へ? 俺に?」


「ええ」



 不破さんは軽く咳ばらいをしてから杏子ちゃんへと向き直る。見た目こそ人形のようだけど、細かなしぐさが妙に大人っぽい。


 いや、だから杏子ちゃんが子供っぽいってわけじゃ……。



「眷属ぅー……?」


「ナニモカンガエテナイヨー。ジュウジュンナケンゾクダヨー」



「お戯れ中失礼。暗黒神よ、私の不注意でもありますが貴殿の城に眷属への褒美を忘れているのはお気づきですか?」



 俺への褒美。つまるところ花梨さんの手料理だ。



「む、我としたことが。提言感謝するぞティターニア」


「いえいえ。そこで取りに行こうと思うのですが、私では城の結界を解くことはかないませんので、お手数ですが暗黒神自ら赴いていただく他ないかと」


「うむ。確かにこの魔道具は我の魔力でしか起動せぬ……。妖精の王女よ、此方の守りは任せてよいな?」



 意味深にぶら下げて見せてるけど、家の鍵は誰でも扱えると思うよ杏子ちゃん。

 まあ家主以外が家に入るのはおかしいっていうのは確かにそうね。



「おや、私のことをお忘れですか? 母より譲り受けたティターニアの名に懸けて。妖精の魔術の世界をお見せしましょう」


「クックック……。貴様とは敵になりたくないな」


「私とて暗黒を統べる神に刃を向けるつもりはありません。どうかご武運を」



 今日のおかずは何だろうなー。



~暗黒神、出立の儀~



「では行ってまいる!」


「ん、いってらっしゃい」



 中二トークにご満悦な杏子ちゃんが家を出たところで、部屋で待つ不破ちゃんの元へ戻る。

 俺に話があって杏子ちゃんを追い出したということは、何か聞かれたくない事なんだろう。



「おまたせ。それで、話って何かな?」


「おそらく察しているでしょうが、暗黒神……黒川さんに関することです。そして、あなたにも」


「俺たち二人?」


「とぼけるのですね……。いいでしょう、その余裕を今すぐ終わらせてさしあげます」



 不破さんの纏う空気と見えない話題が不安感を煽る。

 何か俺たちが彼女にしでかしただろうか……いや、俺は今日初めて会ったばかりだ。




「私は断罪に来たんです・・・・・このロリコンめぇ!!!」




「冤罪だけど言い返せねえ」

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