眷属になりました
~夕方。203号室~
「我は暗黒神! この光の世界に
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 雨に打たれて泣いていた美少女は
そう、中二病。
体や精神が成長に伴ってアンバランスになり、自分よりも強い“何か”に頼ってしまう病気。
アニメやラノベではちやほやされてるが、その本質は恥ずかしさや恐怖心を隠そうとしているだけだったりする。
そんなこと本人たちに言ったら即否定だろうけど、そういうところがまさしく中二病なんだ。「自分はこうじゃない」ってな。
別に俺はこの可愛い病気を否定したいわけじゃない。むしろ俺も患者の一人だったから、強い存在を演じる楽しさや設定を考えるワクワクだってよく知ってる。
思春期の花粉症みたいなもんだよな。
「あ……あんこくしんだからっ、とこしえの光が……えぐっ……」
あー、ごめんごめん。放置しちゃってたな。
とこしえの光じゃ救世主になっちゃうぞー。
「暗黒神だって!? どうすれば良いんだー!?」
さて、そんな中二病に一番効果的なのは『無視』だ。
ただしそれはマイナス面にであって、プラス面に効果的なのは『相手の思う通りにしてあげる』こと。
心配で膨らんだ風船を、針で割るかゆっくり空気を抜いてやるかだな。
きっと彼女は今の状況が不安で仕方なくて、“いつも”のように振る舞ったんだろう。
それならこっちはそれを認めてあげればいい。三文芝居なのは勘弁な。
「……!」
あらあら……目をキラキラさせちゃって。可愛いなあこの子。
「クックック……愚かなる人間よ、怯えることなどなぁい!」
「暗黒神さま!」
「さま……っ!? ……ごほん。わ、我が闇の
矮小かあ……おじさんは一応君の倍生きてるんだぞー。
「眷属……なるためにはどうすれば?」
「えーっと……」
あ、さては決めてないな?
良いですよー、待ってあげましょう。なんたって彼女は暗黒神。また泣か……怒らせたら大変だからな。
~暗黒神が悩むこと数十秒~
「そうだ! 我は腹が減っている……生贄を捧げてもらおうか!」
「仰せのままに!」
~矮小なるおっさん、台所探索から帰還~
「これをどうぞ……!」
めざし「カルシウムやで」
「むー!」
あら、頬を膨らませちゃった。
見た目が生贄っぽいから選んだけど、確かに女の子にめざしはあんまりだな。
「ではこちらを……」
角砂糖「どや? ワイ白いやろ?」
「むむー!」
おおう、机バンバンしてる。
そっか。甘いだけじゃダメか。
「お次はこちらです……」
酢昆布「ワカメちゃうぞコラ」
「むー?」
えっ……何その反応。今の子酢昆布知らないの? 美味しいのに?
しかし参ったな……あとは酒とカップ麺と“アレ”ぐらいしかないぞ。
“アレ”は使いたくなかったんだがなあ。
~おっさん、“アレ”を持って再び帰還~
「パーゲンタッツ!」
さすがに食いついたか。
ちょっと贅沢なアイスの代名詞『パーゲンタッツ』。元々これを買うためにコンビニに行ったんだよな。
本当は俺へのセルフご褒美だったんだぞー。
知らない家の子にカップ麺食わすわけにもいかないしお酒はもちろんダメだし、残った選択肢はこれしかない。
どうせ今日しか会わないんだ、精一杯楽しませてやるさ。アイスはまた買いに行けば良いからな。
「どうかこちらをお納めください……」
「ほ、ほう……人間にしては悪くないな」
「あ、ちゃんと手は洗えよ?」
「えっ、はい」
アイスのおかげか素直だな。むしろ元々良い子なんだろうけど。
~暗黒神手洗い完了~
「いただきまーす!」
「はいはい」
「んー♪」
どうやらこの子の中二病は完全に染まってるわけじゃなく演技らしい。
俺は何というかその……包帯とか巻いてたタイプだったけど、そこまではいってないのか。
……ぐあああ! 精神的ダメージがぁ!
やめろ! 沈まれ俺の
「ごちそうさまでしたぁー♪」
あっ、可愛い。
~おっさん、パーゲンタッツ後片付け完了~
「さて、暗黒神さま?」
「う、うむ! 貴様の……えーっと、コキュートスの輝きは実に美味であった!」
地獄の最下層って300円くらいで買えちゃうのかあ。
「貴様が望むのであれば我が眷属として認めてやろうぞ」
「ははー。ありがたき幸せ」
よし、これで笑顔は取り戻せた。じゃあ次は……。
「暗黒神さま」
「えへへ……じゃなかった! なんだ?」
「暗黒神さまのこの世界での偽りの姿について、いくつかお聞きしたいことが」
結局部屋の前で泣いてた理由は分かってないからな。
もし俺に関することだったら困るし、確認しておかないと。
「まずは偽名から教えていただいても?」
「よかろう。我はこの身を隠すため、現世では『
黒川……聞いたことない名前だし、親戚関連ではないか。
中学生っていうのはアタリだったのね。
「では盗聴されていてはいけませんし、ここからは『杏子ちゃん』とお呼びしましょう。口調もくだけたものに戻します」
「えっ……。け、結界! 結界張ったから『暗黒神さま』のままで大丈夫ぜよ!」
語尾が変になってるぜよ。
よっぽど暗黒神さま呼びが気に入ったらしいけど、声かけるたびに『アンコクシンサマ』はちょっとメンドいわ。ごめんなー。
「大丈夫です。口調は変わっても、暗黒神さま――杏子ちゃんへの忠誠は変わらないからさ?」
「ふん……よかろう」
よし、なんか感動的な雰囲気の演技でごまかせたらしい。少年マンガたくさん読んでおいて良かったぜ。
このまま泣かせないように慎重に……。
「杏子ちゃんの親御さんは今日何時ごろに帰ってくるの?」
「ママは今朝、19の刻までに我が城へ舞い戻ると予言していた」
あ、そこはママって呼ぶんだ。
今は16:57だけど、もし日が暮れたら送っていかないとな。流石にお母さまに「娘さんを預かってシャワーまで浴びせました」とまで言う勇気はないけどね。
「ここから家まではどのくらいかかる?」
「我にかかればほんの10歩程度ぞ」
「えっと……できれば人間換算の時間で言ってくれ」
「人間の尺度でみても30秒もかからんよ。なんせこの建物の隣だからな」
は? いや確かにこのアパートの隣に一軒家はあるけど……。
「そんなに近いなら、なんで俺の部屋の前で泣いてたの?」
「ふぇ……」
いかん! 思わずポロリと本音が!
あの惨状を思い出してネガティブに戻られたらパーゲンタッツがパアだ。耐えろ! 耐えるんだ杏子ちゃん!
~暗黒神vs涙。数秒後~
「……ケルベロス」
――バァン!
へ? 机に足をかけるこのパターンは……。
「ケ、ケルベロスが悪いのだ! 奴さえいなければ今頃我はー!!」
またこのオチかよ! つーかケルベロスって何ー!?
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