となりの暗黒神
にとろげん
暗黒神と眷属
暗黒神は部屋の前に落ちている
~夕方。街のコンビニ付近~
春は天気が崩れやすい。
たとえば昨日まで晴れが続いていて、ちょっと油断して天気予報を見ていない日に限って雨が降ったりする。
今日もそんな風に数分前から突然雨が降ったが、偶然行き先がコンビニだったのでビニール傘を買うことができた。コンビニエンスの名は伊達じゃないな。
レジで包装まで剥がしてもらったおろしたての傘に、ボツボツと大きな雨粒が当たる音。
俺は小さい頃から本をたくさん読む人間だったから、こういう少し肌寒い雨の日は、『ひろってください』だなんて無責任な言葉が書かれた段ボールの中で子犬がプルプルと震えている様を思い浮かべてしまう。
家に持って帰ると母から「元いた場所に戻してきなさい!」だなんて叱られるけど、紆余曲折を経てその子犬は家族の一員になるんだ。
実際自分では拾ったことがないけれど、誰もがあると思ってる物語。
~数分後。男のアパート2階廊下~
「……」
そんな感動的なストーリーを妄想していたせいだろうか。悪い幻覚が見える。
女の子。
黒髪を、ボブカットって言うんだっけ? 肩の少し上で切り揃えた、制服姿の女の子。
セーラー服を着ているし学生だろうな。身長的に中学生か。時間的に学校帰りなんだろう。傘を忘れたのかびしょびしょに濡れてしまっているじゃないか。可哀想に。
……可哀想、なんだが――なんで俺の部屋の前で泣いてるの?
「うぐええ……グズッ……あああああぁ……」
ええ……わりとガチ泣きじゃん。俺何かしたっけ? 女子中学生を泣かせるようなこと?
そんなあやまちを犯したりはしてない……ってあやまちとか犯すとか中学生相手になんてことを!
まあ普通に考えれば雨宿りなんだろうけど、グズグズに泣いてるし、わざわざ203号室とかいう中途半端な位置の俺の部屋の真ん前だし……。
「くちゅん! ママぁ……」
「どうするかなあ……」
~数分後。男の部屋~
『~♪』
「あーあ。鼻歌なんて歌っちゃって」
結局俺はびしょびしょの女の子を家に上げることにした。
今はシャワーを浴びてもらってる。
……字面の犯罪臭がすげえ! でえじょうぶだ! オラは紳士だべ! 信じてけろ!
だってあのまんまじゃ風邪ひくだろ……。自分のことは可愛いけど、そこまで良心は腐ってねえよ。
家に上げる前に受けた泣きじゃくりながらの状況説明によると、傘を忘れて雨に打たれ、おまけに家の鍵をなくし、両親も仕事で夜まで帰ってこないんだとか。
今の時代共働きも珍しくないよな。俺も働くようになって金の大切さは理解したつもりだし、きっとこの子のために働いてるんだろうって分かる。
「しかしこの後どうするかね……」
生憎我が家はキッチン風呂トイレ付きとはいえ、八畳一間で家賃は35000円のボロアパートだ。床は畳だし、男の一人暮らしだからあるのは必要最低限の家具と趣味のマンガだけ。
とても華の
まず今の子って何を喜ぶんだ? 中学時代とかついこの間な気がしてたんだけどなあ。
~男が頭を悩ませて数分後~
――コンコン
ん? 脱衣所からノックの音だ。シャワー終わったのかな。
「あの……っ」
小さい声。そりゃあ緊張もするよな。
……俺がするべきなのはもてなすとかじゃない。雨の中泣いてたんだ。きっと心細かったはず。
今はこの子に優しくしてあげよう。それが大人の役割だ。
「温かいココアでも用意するからこっちの部屋においで。何にもないけど夜まで居て良いからさ」
「えっと……」
なんか迷ってる? あー、やっぱり男の一人部屋は嫌かあ。そうだ! この子の友達とかに連絡をして……。
「着る服がないんですけど……」
うんうん。シャワー浴びるんだからもちろん服は脱ぐよね。
学校帰りなんだし替えの服なんてないよね。そうだそうだ。
濡れた服を着るわけにもいかないもんなあ。
――なんも考えてなかったああああ!
どうしよう! 完全に見落としてたよ!
今警察が来たら一瞬でゴートゥープリズンだよ!
「とっ、とりあえず俺ので我慢してもらえるかな!?」
「あっ……はい!」
~一番綺麗だと思う黒いTシャツと短パンを脱衣所の前に置き、待つこと数分~
「着替え終わりました……」
「う、うむ……」
いつも俺が着ている服を風呂上がりのJCが着ている……。
お、俺は紳士だぞ! つーかこの子やたら可愛いなチクショウ! 思わず「うむ」とか言っちゃったよ! 仙人か!
いかんいかん……相手は中学生だぞ? 俺は今年で29。ほぼ倍じゃねーか。落ち着け落ち着け……。
「ま、まあ適当に座ってよ」
「はい……」
折り畳み式の小さいテーブルの対面にちょこんと座る彼女。
それにしてもおとなしい子だなあ。借りてきた猫……は意味がちょっと違うか。
~数分後。ココア完成~
「はい、どうぞ。温まるよ」
「ありがとうございます……」
うーん。最低限しか喋ってくれないな。
おとなしいだけなら良いんだけど、怖がらせてたらなあ。向こうから見れば知らないおっさんだもんな。言い出しにくいか。
よし……。
「ねえ」
「はい……」
「やっぱり男の部屋に女の子が一人で居るのも何だしさ、誰かお友達とかに連絡して助けに来てもらったらどうかな?」
「友達……」
あれ? 黙り込んじゃった?
まさか友達は地雷ワード!? 親友と喧嘩して泣いてたとか!?
つーか今時スマホ持ってるだろうし、できるならもう連絡してるよね! 気づけよ俺のバカ!
「友達……いない、です」
もっと地雷だったー!!
~気まずい沈黙数十秒後~
どうしよう……完全に落ち込ませちゃったよ。
俺のせいだよなあ。
いないってことはゼロじゃなくても、こんな状況で頼れるほどの仲じゃないってことなのかな……それでも俺のせいだよ。俺が声をかけたんだから。
……だったら、だからこそ、俺がこの子を安心させてあげないといけない。
責任ってやつだ。
罪滅ぼしどころか自己満足だけど、このまま夜までってわけにもね。
「キミ、名前は?」
まずは名前を聞いてみよう。お互い知らないなら知ればいいんだ。
「……!」
おっ、食いついた!
「わ……」
「……」
「わ、我は……」
「我?」
――バァン!
……なっ!? なんで突然立ち上がってテーブルに足をかけて……。
「我は暗黒神! この光の世界に
この子……。
この子――
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