まるで映画のようで

 驚きのあまり口をあんぐりと開ける私を鼻で笑って、彼は続ける。

「とぼけるなよ。道具の邪気をたどってこの世界まで来たんだ。それに、呪いに触れていない俺でも感じることが出来るくらい、お前には邪気がまとわりついている」

 邪気、呪い……。最近読んだ小説が、ちょうどそんなお話だったな……と、また私は現実逃避をした。

『ちょっと待って、シェル。道具を持ってるのはその子じゃない』

 そんな私の耳に、春の日差しのような優しい声が入ってきた。

 驚いて目だけを動かして辺りを見渡すが、私の頭をつかんでいる男以外に誰もいない。

「なんだと? だけどお前が、この男から邪気がすると…」

 彼は眉間に皺を寄せ、空いている手で自分の胸元にあるペンダントを掴みながらそう言った。

(ペンダントが、光ってる…?)

 黄緑色のペンダントは、声に合わせて彼の拳のなかで蛍のようにやわく点滅する。

(ペンダントが電話の役割を果たしてる…のかな)

 頭を掴まれ状況についていけない私を置いてきぼりにして、彼等の会話はヒートアップする。

『たしかに、その子から邪気を感じると僕は言ったっ。だけど、遠くから、それも異界からじゃあその原因が道具を持っているからなのか、呪いに触れたからなのかわからないんだ!』

「そんなの、初耳だ」

『ああ、そうだろうとも。僕がそれを伝える前に、君は穴に飛び込んじゃったから』

 ……まるで映画を見ているみたいだと思った。ローブを纏ったイケメンが、不思議な点滅するペンダントを使って、ここにはいない誰かとしゃべっている。

(あ、でも、それだけじゃないかも…)

 彼の声は、しっかりとした日本語で聞こえてくる。しかし、形のいい唇は音声と伴って動いていない。なんというか、映画を吹き替え音声で見ているような感じなのだ。

「それではコイツは関係ないんだなっ?」

 目の前の光景に、ほうっと見入っていた私の頭を掴んでいた力が、また強くなる。そしてペンダントの方、つまり彼の胸板の方にぐいっと頭を持ってかれる。

「ひいぃっ、や、やめてっ!」

 恐ろしさと痛さがまたこみ上げてきて、必死に両手を突っ張って離れようとする。しかし、彼はまるで電柱のようにびくともしない。

『関係ないわけないじゃないか! いいか、その石頭でよく考えてみなさい』

 石頭、と言われて癪にさわったのか、頭がよりギリギリと締め付けられる。

『その子から邪気を感じるのにもかかわらず、道具を持ってないということは、その子が呪いに触れたということだ』

(呪いに…触れた……?)

 その言葉を耳にした瞬間、いきなり氷水を頭からかぶったみたいに訳がわからなくたった。突っ張っていた腕にも力が入らなくなり、肘のところでカクっと曲がる。

 呪いだなんて物語の中だけに存在するもので、現実に存在するなんて私は信じていない。だけど、こうも目の前で不思議なことが立て続けに起こってしまうと、私は呪いというものが怖くてたまらなくなった。



――――――――――――――――――――

 すげえ、3ヶ月ぶりだー。

 大学生って思ったよりも忙しいのですね…


 マイペースな性格が物語の進み具合に影響して、なかなか異世界に行けない…もどかしい……


 読んでくださり、ありがとうございます!

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