重いようで軽い
少年達はいよいよ旅に出ようとしていた。最初の目的地は地精族の領地「古の渓谷」で西に位置する場所だ。
そこは荒れた大地が広がり、地精族の機械達が見張りをしているという。
「ねね、シオン」
「ん」
「私疑問に思ったんだけど、地精族のいる古の渓谷ってなんで古なんだろうね」
リーシャは地精族の領地名にある「古」という単語に疑問を持ち、シオンに尋ねた。
「うーん。僕にも分からないなぁ……今頭に浮かんできたイメージは、地精族が持つ技術は昔のものか。とか、土地そのものの見た目が古い。とかそういったものだね」
「なるほど土地そのものね……因みにシイナはどう思う?」
「シイナもそんなに分かんないけど、ゴツゴツした岩とか多かったのは分かるよ」
「ゴツゴツした岩場ね、ありがとう」
そっか、シイナは精霊達の魂から生まれた個体だった。いくら優れた精霊達が集ったとしても身体も心も人間に近いように、シイナはシイナなんだ。それ故に彼女の源である精霊達が今までどんなに多くの光景を観たり、感情を抱いたりしても全てが彼女自身には反映されないんだ。
白く綺麗な衣装を纏い、まるで神秘そのものを思わせるような容姿をした少女が曖昧さを感じさせる答え方をしたせいか、少年は心の中でシイナが何故曖昧な答え方をしたのか自分なりに解釈していた。
そんな会話をいつもみたいにしながら家の前で佇む三人。
「こんなことで会話を楽しむのもいいけど、みんな準備はできてるの? 忘れ物とかはない?」
「だーいじょーぶよー」
若干気だるそうに答えるリーシャ。
「分かった。それじゃあ僕たちの旅を始めようか!」
「ええ!」
「うん!」
——迷いの森
ここは迷いの森。シオン達が前に読んだ書物の中の地図では、地精族の領地へ行く道の本当に手前の方に記されていた地名だ。周囲の木も大き過ぎて太陽の光さえも僅かにしか入ってこない。入り口に過ぎないこの土地がこの規模だと少年達も先が思いやられるだろう。
シオン達が歩き始めてから数十分が経ち、森の雰囲気も変わってきた。それも、少し不気味さを感じさせるように。
「なんだか気味が悪いわね……」
「まぁ、同じ森と言えど、僕達が最初転移してきた場所とは正反対だもんね」
「この木って地球にある普通の木と比べてそんなに大きいの?」
「大きいなんてもんじゃないさ」
「ええ……見た感じだと10mは超えてるんじゃないかしら」
「おそらく——」
異常な高さを有する木と、地球とは全く異なった雰囲気が少年達の心を刺激していた。
ヒトは肉体的な痛みより精神的な痛みの方が己を恐怖に陥りやすい。
そこらにあるものを気にかけながら進んでいくが、歩いても変わらない薄暗い森。足場の悪い地面。これらが足取りを抑制する。
しょっぱなからこれだから、今の少年達の表情を伺わなくても大抵は予想づく。
しかし——それは一人を除いてだった——
「あれ、二人とももうばててるの? まだほんの数十分しか歩いていないよ?」
「えへへへ、シイナは元気なんだね……」
「私もう無理~、早く休憩しようよ~」
「リーシャ、確かにその気持ちは分かるけど流石に早すぎるんじゃないかな……」
シオンが疲れた表情を浮かべながらも若干笑みを浮かべながら答える。
「冗談よ冗談~、シオンだったら私はすぐこうやって弱音を吐くって分かってるでしょ~う?」
「まぁねー」
「……」
シオンとリーシャはもともと体力面に関してはそこまで自信が無く、ましてやこんな足場の悪いところだ。土が盛り上がり、そんな地面に巨大樹の根も迷路の様に張り巡らされている。
そして、リーシャはすぐに弱音を吐いてしまう性格だ。アーク学園に向かう時にもあったように。
——何回か水分補給を繰り返し二時間が経過した。
二時間も歩けば景色くらいは変わってくるはずなのだが、ここの森は違っていた。全く表情を変えず、鬱蒼とした雰囲気を保ったままであった。何回か休憩したとは言え、学生であり、慣れていない環境にいるという過酷さは少年等の体力を時間に伴って確かに削っていっていた。普通であればもう結構汗をかいていてもおかしくはないが、ここは辛うじて日が少ししか当たっていない。そのため、汗は最小限に抑えられている。
もし仮にここが地球で世界遺産などの人が観に来るような場所だったら、何だか異世界に居るみたいだな。などとどちらかと言えばプラスなことを言うかもしれない。ここは地球ではなく、本当の異世界だ。そのプラス発言がここでは真逆になる。それくらい肌身を持っての体験は辛いのだ。
そしてそんな森をも振るわせるかのような声が響き渡る――
「どぅぅあぁぁぁー! ロリって最高だなぁ?! 僕と一緒に家で遊ぼ――ぐへぇっ!」
「やられたいのかなーやられたいのよねー?!」
「――って! もうやってるじゃん!」
腹に手をやり、顔色を青くして前のめりになる少年。そんな少年には現在、シイナの萌え萌えお兄ちゃん大好きだよ♡パンチ――ではなく、リーシャのゲス野郎を心の底から
「お兄ちゃん、そんなにロリが好きなの? 次家に帰ったら一緒にイイこといっぱいしてあげようか?」
「――ッ! うんうんお願いしますお願いします。この性欲にまみれ――コホンッ。妹を一番に考えるという超愛情にまみれたお兄ちゃんをどうか癒し下さ――いってぇえ!」
「ホンットに寒気が止まらなくなるからやめなさい! シイナもこんなヤツの相手なんかしないでいいのよ?! それといつからあんたに妹なんてできたの? ん?!」
「なになに、忘れたのかな僕の幼馴染みであり、超頭の優れたリーシャさん。」
「何よ」
「僕は
「それはあくまでロリ設定でしょ?! ロリが必ずしも妹になるってわけじゃないのよ?!」
「僕の中ではロリ=妹だよ」
「――あんた頭ん中お花畑ね」
シオンは幼い子が大好きなのだ。俗に言うロリコンもいうやつだろう。彼の言葉に耳を傾け、ノリよく答えたのはシイナだ。シイナは名付け親であり、自らに優しく接してくれているシオンのことを好きか嫌いかと言ったら、好きだ。だが、好きか嫌いかと言ったらの話しで、まだ異世界ハーレムの様にメロメロになってはいない。
そんな二人に対し、真逆の立場で答えたのはリーシャ。持ち前の透き通ったような黄色に近い金髪を風邪が吹いた時のようになびかせながら、ブルーの瞳を大きくさせシオンに渾身の一撃を放った本人だ。いつもながら幼馴染みであるシオンに他の異性が距離を近づけると、つい感情的になってしまう。きっとどこかでシオンのことを良い風に思うところがあるのだろう。
しかし、シオンがあんなことを叫んだのも考えがあっての上でだ。先程まで続いていた自分達三人の重い雰囲気。この森にいれば必然とそうなるのかもしれないが、自分達の雰囲気まで悪くなってしまったら冒険どころではない。そんな状況を打破するためにもシオンは叫んだ。否、叫ばざるを得なかったのだ。
そして、雰囲気も多少は良くなりまた歩くのを再開する三人であった――
変わりゆく世界で一を創造する者 キリシェ @525_shun
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