番外編 接触

──少年らがこの世界に来て15日が経過した。


グラッ


ん、地震か……?

でも、なんて言うんだろう。地球の地震とは何か違う感じがする……


少年は昨日の疲れが大きかったのか熟睡していた。

夢か現実か判断できないまま、掠れた声でボソッと言い放った。


グラグラッ


──ッ! ますます強くなっていないか?!

この大きさは結構まずいぞっ!

リ、リーシャとシイナは大丈夫か?!

このままじゃ家がもたないっ

……あ、あれ? どんどん遠のいていないか?


そんな少年の深い眠りを妨げる大きな揺れは、夢ではなく現実だったのだ。

時が経つにつれますます大きくなっていくその揺れは、少年の身をベッドの上から床へと放り投げた。

このままだと少年は床上で身体が蹌踉よろめく状態が続くはずだ。が、逆に体制を保つことができていた。

そう、今度は揺れが徐々におさまっていったのだ。


うん、やっぱりおかしいな。こんな揺れ方は初めてだ。

震源が移動しているみたいだな。

……まさか! もう位置が特定されたのか?!

土の中にいて、その中を移動し回っていて、この世界に存在するものといえばまず真っ先にヤツらを思い浮かべる。

だ。

世界の各地にヤツらの鉱脈があるという。

……まてよ、これはチャンスではないのか。


ガラッ


揺れがおさまり思考も安定したところで、勢いよく部屋の窓を開ける少年。

土の中にいた何者かが移動して行った方向に目を向けるとそこには、1mくらいの髭を生やしたガッチリとした体格の男が背を向けて立っていた。

6種族の中でも機械の扱いに長けた種族、地精族。


まさかこんなにも早く地精族を見れるなんて。せっかくだから写真でも撮っておこうか。

それにしても小さいなぁ。

──ッ! まずいっ、やばいやばいやばいやばい。


少年は手に持っていたスマホを落としそうになりながらも上手く家の壁に身を隠した。

見ていた地精族の男がいきなり振り向いたのだ。


「はて、今のは何だったんじゃろうな。まぁ、また下等生物が何かやっているのであろうな。うむ。」


少年の気配に気づいたが、「下等生物がいる」とだけ認識し、再度地下に穴を掘り始めた。

彼ら地精族は、高度な技術力を有するが故に他種族を見下す習性がある。


……行ったのか?

冷や冷やしたけど、まぁ見れてよかった。

それよりも、リーシャ達は大丈夫なのか?

さっきの揺れのせいでベッドから落っこちてたりして……

念の為様子を見に行ってみるかぁ。


──リーシャー、シイナー、大丈夫かー?

って、なにこれ。心配した自分がバカみたいだよ。


起きていたシオンも床に落ちる程の揺れで、もちろん二人の少女もベッドから放り出されていたが、少年が見やった先には信じられない光景が広がっていた。

床上に放り出されていたにも関わらず、二人の少女は爆睡していた。


ちょっとリーシャ、シイナ起きる時間だよ。


「んんー、もう少し、もう少しだけぇ」

「シイナもぉ、もう少しだけ……」


げっ。全然起きる気配がないんですけど。

まぁ、ここ最近頭使ったり、力仕事したりで疲れが溜まってるからなぁ。女の子だったら仕方ないかも。

たまには寝かせてやるか。

でも僕はいつも通りしっかりやることをやらないと。

……よし、木でも切ってくるか。


◇◇◇


外に出てから2時間が経過した。現在の時刻は10時。

この世界にも時間の概念は存在する。


っと。このへんで終わりにしようかな。これだけあれば何日かはもつだろ。

んあー、それにしても朝からこの疲労感か。まぁやろうとしたのは自分だけどね。

てか、なんでさっきからあっちの森から動物達が出てくるんだ? 何かあるのかな。

様子でも見に行くか──


ドスッ


ったた。す、すみません。


「うん? ああ、大丈夫だよ。それよりも君は大丈夫?」


──ッ! 何だコイツは?!

落ち着け僕。平常心を保つんだ。

ゴクリ。


少年は、固唾を飲み自分の頭二つ分上の方を見やった。

辺りを注意深く見回しながら歩いていたせいか、前にいたに気づかなかった。

大男は髪型は刈り上げで、いかつい顔をしていたが、そんな顔には似つかわしくない様な口調で少年を心配したのだった。

声を聞く限り「コイツは優しい」などと勘違いしてしまいそうだが、外見はそうはいかない。


一、二、三、四、五──

って!十二枚だって?!


そう、大男の背中には十二枚もの翼が生えていた。

嫉妬や恨み怒り、そういったものをイメージさせるかのような漆黒の翼だ。


「俺はサマエルというものだ。書物には一種族として認識されていなかったが、堕天使だ。そして、見てわかる通り目が見えていない。君は?」

「僕はシオン……」

「あまり見ぬ顔だな。それに着ているものもな。」

「確かに見慣れないかもですね。ところで、サマエルさんはこんなところで何をしていたんですか?」

「ああ、俺は丁度獲物を探していたところだ。でも、みんな逃げていくだよなぁ……君、俺に食われたい?」

「──ッ! や、ややややめてください! お願いします!」


なーんてねっ。


「フハハハッ! 冗談だよ冗談。俺は他にも用があるしこれでじゃあな。次会った時は食うからな。」

「はーい。って! もし次会ったとしても食べないでくださいよ?!」

「それは保証できないなあ! あばよ!」


っふぅ。死ぬかと思った……

まさか堕天使と遭遇するとは。それに十二枚の翼って化け物クラスだぞ。

あんな感じでやり過ごしたけど、これが酷いやつだったら確実に死んでたな僕。


◇◇◇


──その夜


「ね、ねぇリーシャ、シイナ?」

「何よ。普通に話しなさい」

「実はさ、今日の朝あったことなんだけど。僕、地精族と堕天使に出会ったんだ」

「それホント? 嘘にしか聞こえないんだけど」

「ホントだよ。 地精族は出会ったというか、僕が部屋の窓から見てただけなんだけどね。堕天使とは肌の接触があった。僕が前に注意して歩いていなかったせいが、その堕天使の胴体に顔をぶつけてしまって。えへへ」

「えへへじゃないわよ! あんた大丈夫だったの?!」

「まぁ、たまたまその堕天使が良いヤツだったからね」

「よかった……ってか、さっき胴体に顔をぶつけたって言ってたけど、そんなにデカかったんだ」

「うん。頭二つ分は大きかったね。その大男は自らをサマエルと名乗ってたよ。」

「──ッ! サマエルってあのサマエル?! 」

「あぁ。翼もしっかり十二枚あったしね。死ぬかと思ったよ。」

「生きて帰ってこれたのが奇跡だわ……」

「というか、シイナどうしたのさっきから?」

「な、なんでもない……」


会話が終わって初めて口を開いたシイナ。

少女の顔はこわばっていたのだ。


──あぁ、今日は何だったんだ。

朝から二種族と会うとか、そんなにホイホイ居るもんなのかよ6種族ってやらは。

んまっ、もう寝るか。

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