第15話 統一前夜
◇◇◇
「よし、それじゃあ必要なものは揃ったことだし、最後にどのようにして種族統一するかを話し合おうじゃないか」
「あら、こっちに来てから1ヶ月で随分たくましくなったわね」
「お兄ちゃん、頼りになるぅ……」
──シオン達が畑を作り始めてから1ヶ月が経過した。
シオン達は十分な程の食料を手に入れた。
この世界では何故か、地球よりもずっと早く野菜が育つのだ。そのため、シオン達が家の周りで育てている野菜は何度も収穫することが可能だったのだ。
容姿もそうだが、それよりシオンの雰囲気を見てリーシャは「たくましくなった」とシオンに言った。
少年はこの世界に転移してきた時とはうって変わり、見た目は少し大人っぽくなり、筋肉が以前よりも厚みを帯び、雰囲気は静かさ故の威圧感というか、背中を見ただけで「強大な人」をイメージさせるかの様だ。
そんな少年は自分に自信がついたのか、敵種族に対する恐怖感を感じさせないまま「種族統一」の話をし始めた。
「まず一つ目に、この世界を救うためには各種族をどうにかしないといけない──」
「そんなの分かっているわよ、私が話し合いたいのはどの種族を最初に攻めて次にどの種族を落としていくかということ」
「リーシャー、何か勘違いしてない? 僕は統一すると言っているんだよ? 攻略や侵略なら確かに攻めるけど、あくまでも統一だからね」
「じゃあ、敵の領内に攻め込んでその種族の長を脅かすということはしないの?」
「そりゃそうでしょ。仮に僕達が敵の領内に攻め込んだとするよ? そしたら、数的にも力的にも差が激しい僕達はどうなると思う? 」
「即滅……」
「シイナ、正解」
「……だ、だってこっちにはシイナだっているし、食料も山ほどあるのよ?!」
「確かに食料は山ほどある。だけどその場に食料はそんなに持っていける? 無理がありすぎる。それにシイナの力はそんなことには利用しない。」
「それの方こそ、先が見えないじゃない……」
「リーシャ、確かに僕達人間の力ではこのミッションを成功させることは難しい。しかもたった三人しかいない中で。──でも、精霊と人間だよ? 人間の脳は他種族の脳より遥かに優れていて、ここの精霊の脳はその人間すらも超越する! やることは一つしかないだろ!」
「頭脳戦?」
「その通り」
リーシャのイメージは敵種族を打ち倒すということだったのだ。
しかし、実際そんな上手い話なんてないということをシオンが一から教え込み、現実を知らせた。
リーシャの考え方が整理できてきたところで再び話し始める。
「シイナ、シイナは僕達が目的地に向かう時とか道案内とかしてくれる? それに危険の察知とかも」
「うん、そのくらいはできるよ」
「わかった。なら二人はもう他のことをしていてもいいよ」
「ちょっ、何よその言い──」
「リーシャ、シイナちょっと作りたいものあるから手伝ってくれる?」
シオンは何かを企んでいる。とシイナは察していた。
そんな少女はもう一人の少女を部屋の外に連れ出し、地下の研究室に向かった。
「──っふぅ。これで落ち着いて考えれる……」
少年は二人が部屋を後にした直後、大きく深呼吸をしていた。
この時、いや、話し始めてから少年は正気を保っていられない程のプレッシャーを感じていたのだ。
本当に自分達なんかがこの世界を救えるのか。この少女二人をリードしながらあらゆる危機を乗り越えられるのか。そして、死んでしまわないのか。
先のことを考えた時にこの感情は生まれた。
だから少年は一人にして欲しかった。
再び大きく深呼吸をする──
まず初めに仲間にする種族は……
あ、あと説明もか。
地精族が最初の理由は、単純に仲間にしやすそうだったからだ。
ヤツらは高度な技術力をもっている。そんな種族が僕達の様な脳が発達している種族には目がない訳がないだろう。
それにそんな高度の技術力があればほぼのことは計画通りに進むはずだ。
あと、そこら辺をうろちょろしている機械はシイナに頼んでおいたもので何とかなるだろ。
そして次に吸血鬼族を選んだ理由はというと、まぁ数足しかなぁ。
数足しとは言っても、ヤツらの「鏡に映らない」とかの特性を上手く使えそうだしね。
そして、ある程度の勢力が出来上がってきた時に森霊族を狙えば上手くいくかな?
最初っからヤツらを狙うってのも良かったかもしれないけど、ヤツらは何を企むか分からないんだよなぁ。
でも、上手くいけば多分、統一に王手をかけることができると思う。
そして、ここで巨人族の登場だ。
巨人族の勢力は
だから、ここまでに統一してきた3種族の力が必要となると思う。
巨人だから、僕達が遠くにいてもすぐに見つけてしまうだろうし、その時には領内防衛だってするだろう。
そこでだ、地精族の技術力、森霊族の法力があればそれらを回避可能となる。
そして、天使族を統一するとなれば、天界の下にいる悪魔族の存在は無視出来ない。
ヤツらとの
天使族は協力してくれそうな面もあるけど、実は一番難しそうだったりするから何も掴めないんだよなぁ。
とまぁこんな感じかなっ。
んよし、リーシャ達の様子を見に行きますかっ、と。
シオンは両膝に手を付き、よいしょと腰を持ち上げ、リーシャ達のいる地下室へ行こうとしていた。
階段へつま先を向ける少年。
◇◇◇
「おぉシイナー、できたー?」
「うん、できたよぉ」
「ねぇシオン、これが何なのか教えてくれる? シイナったら全く教えてくれないんだもんっ」
自分だけ何をしているのか分からなく、頬を膨らまし少し怒り気味で言う少女。
「んーとね、それは光学迷彩だよぉ」
「こ、ここここ光学迷彩ですって?!」
「うんそうだよ。無理かなーって思ったけど、シイナがいいよって言ってくれたから、えへへ……」
「よくそんなの作れたわね……って! 私だけ知らなかったじゃない! このくらい教えてくれたっていいじゃない……」
「いやー、リーシャがどんな反応するのかなって」
「まぁ確かに驚いたけど、それよりも何かしらこの胸の高鳴りは」
「あぁ、僕もしているさ。こんな道具を実現できるなんて夢みたいだよ」
シオンは最初に統一する種族、地精族に立ち向かうため、光学迷彩を作るようシイナに頼んでいた。
そんな統一の件も二人の少女に伝え、統一前の準備はばっちりとなったのだ。
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