第14話 畑作り

少年が朝起きて窓の外を見ると、いつもは見えているはずの眩しい光が目に入るが、今は微量の光しか入ってこない。


そこは少年達が転移してきた時とはまったく異なった雰囲気を漂わせている。

少年が家を一人で出て前へ歩いていっても、視界は「白色」に包まれたままで、たまに植物の緑色が瞳に映る。

そう、森全体が深い霧で覆われていたのだ。

気温も身を刺すくらいな寒さとなっている。

昨日の夜、雲一つない空だったせいで、今日は気温が低い。放射冷却現象と同じ原理だろう。

放射冷却現象とは、その日の夜が晴れていると次の日の朝の気温が低くなるという現象だ。

雲がないせいで、地面から放射された熱が外部へ逃げていき温度が低くなる。反対にくもった夜だと次の日はそんなに寒くならない。


──クシュンッ!


寒っ! 早く家に帰って暖炉で温まらないとっ。


少年はくしゃみをして、身を震わせながら家へと帰っていった。


──バタンッ


あぁ、寒かった。

ってか、リーシャとシイナはどうしたんだろ? いつもなら今起きてくる頃だけど……

よし、少し温まったら様子を見に行くか……

──ん? 待てよ、寒いってことは二人は布団にくるまって二度寝しているんじゃあないか?

もしそうだったら、勢い良く二人の部屋の扉を開けて、少し怒り気味で叱ってやろう。フッフッフッ


少年はニヤリと笑い、階段を上がってリーシャ達の寝室へ行く。


──おいっ!何時だと思っているんだ! 僕達の時間は限られているんだぞ!


──あ、あれ? いない?

っと、この紙は? どれどれ。


「シオンへ。シオンは多分早起きして外に出ても、どうせ寒いって言ってすぐ家に帰ってくるよね。そして、暖炉で温まった後、多分私達を叱ってみようという計画を立て寝室に来るよね。でも、私達はいないよ? 何か見落としていない?」


──ッ! バカな、嘘に決まっている!

何か見落とした? なんだ? 僕はただ朝早く起きて外に出て、寒いからって家に帰った。その時、リーシャ達は一階にはいなかったし。そして、暖炉で温まっていて……

ん? 暖炉で温まる……?

そういうことかっ! 完っ全に手のひらの上で遊ばれた!

暖炉は昨日ついていなかった。よって、誰かがつけなければ僕も温まることができなかった……


「ふんっ。やっと気付いたようね。」

「お兄ちゃん、面白かった……よ?」

「わぁっ!!」


少年は朝早くから少女達の手のひらの上で弄ばれていたのだ。

そんな少年が弄ばれていたのに気付いた時、後から二人の少女達が声をかけた。

そんな声かけに驚き、尻もちをつく少年。


「リーシャ、それにシイナもっ……ていうか二人、なんで僕の部屋から?」

「あんたが起きて、部屋を出ていったのを見計らって入ったのよ。」

「もー、こんなことはしないでよねぇ……凄い驚いたんだから」

「──プハハハハッ! いいじゃない、おかげで目も覚めたんだし!」

「よくないよぉ……」


少年は溜め息をし肩をすくめた。

三人とも目が覚めたところで、なにやら家の中にあったくわを手に取って外に出ていた。


よいっしょ、よいっしょっ、と


外に出た三人は家の周囲の土壌を掘り起こし、畑を耕そうとしていた。


──数時間後、さっきまで土壌掘りをしていた少年達の額にはびっしりと汗がかいてあった。

しかし、シオンとリーシャはこの後の大変さをよく知っていた。二人の叔父は農家をしている。そんな叔父がいつも大変そうにしているのも知っているし、実際に自分達も手伝った時に予想以上に疲れたのだ。

汗はかくわ、身体からだは唸りを上げるわで本当に大変なのだ。

こんなに冷えた朝でも、額にびっしり汗をかいているということが何よりもの証明になっている。

耕し終わった後に、小休憩を家の外に用意したベンチに座りながら取っていた。


「よし、堆肥を入れていきましょ。その次はうねを作るけど、平畝と高畝のどっちがいい?」

「うーん、どっちとかって限定しちゃうのか……そうだ、ここの土地広いんだから、半々にしない?」

「いいわね、そうしましょ」


──初めにやることはすべて終わった。

土地を真っ二つに分け、家の正面から見て右側は高畝、左側は平畝となっている。

畝とは土壌を盛り上げて周囲よりも高くなったところを言う。

それぞれに肥料をまいて、高畝にはトマトやサツマイモ、平畝にはトウモロコシ、エダマメの種を植えた。


つんつん。


「ねぇお兄ちゃん、これなに?」

「それは畝と言ってね、畑作りには欠かせないものなんだ。だから、あんまりいじらないようにね。あ、種とかも出してくれて本当にありがと」

「わかった。あと、シイナはこのくらいのことなら手伝うからね。」


どうやら畝が気になったらしく、盛り上がったところを、つんつんと指でつつくシイナ。

彼女の力がなければ、畑も作ろうとは思わなかったシオンは彼女に感謝していた。


三人の食料は植えた植物が実をつけるまではあまりないが、もしよく育てばそれなりの食料が得られる。

また一歩進化したしたのだ──

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